牙は隠して、あくまでも優しく、それでいて積極的に……








優しい狼








メモリーから溢れ出しそうなほどのこの想いは、留まるところを知らないらしい
毎日毎日、会いに行くことを強要する(勿論逆らわない)
毎日毎日、贈り物をしたくなる(財布と相談しつつ、出来る限りは実行する)
毎日毎日、言葉にしないと気が済まない(伝えた後の困ったような表情も愛おしい)

だから、今日も実行する


「愛している、ロックマン」


「……うん」


困ったような、それでいて嫌がってはいないと思われる表情
何時の日か、この表情が変化することを信じているのだが……何時になる事やら


「やはり、迷惑か?」


トーンと肩を落として、申し訳なさそうに
押してダメなら引いてみろ、というヤツだな
これもお前が欲しいから


「え、その……迷惑っていうか……なんか、悪いなぁって」


お前の性格ならそう言ってくると思っていたよ
ああ、慌てたような表情も可愛らしいな


「お前が気に病む事は何もないさ。俺が言いたいだけだからな。勿論、お前が俺を好きになってくれれば言うことないんだが」


そう、俺の望みはそれ一つだけ
想いを自覚したその瞬間から、お前以外のものが全て色褪せて見える位に思考を占める
俺の思考を支配したそれは、時々重く低い声で告げるのだ




『他の方法があるだろう?』




「……メタルマン?どうしたの?顔が……」


「あ、いや……何でもないさ」


本当に何でもない事をアピールするために、微笑みを見せる
お前に嘘は吐きたくない
だが……今だけは嘘吐きだ
俺の中にあるものを知ったら、お前は絶対に俺を愛してくれないだろう?


手段を選ぶべきなんだ(今までしたこと無い癖に)
回り道?上等だ(効率以外に何を求める?)
お前を尊重することが何よりも大事(尊重するより、堕とす方がよっぽど早い)
ただ、お前を愛しているんだ(愛と言うよりも欲しいという方が正しいだろう?)


……自分でも気持ち悪くなる様な酷い言葉で構成された、とても願望と欲望に忠実な意見
浮かんでは消えて、浮かんでは集まって、尖った牙を形成していく
お前を、食い散らかすための、牙を


「でも、そうは見えないよ。お節介だとは思うけど……心配だよ、メタルマン」


羨ましい程、嘘と縁のない綺麗な、コードが透けそうなほど透明な瞳
そこに映るは、牙を隠した自分の顔


「ありがとう、お前はやはり優しいな。今はこうだが……俺は一度、お前を壊そうとしていたというのに」


消えない事実
けれど、その事実が無ければ生まれる事も、会う事も無かった訳なのだが


「……もう、過去の事だよ。メタルマンが悪い訳じゃないよ……」


言葉と共に伏せられた顔は、何処か傷ついてしまったようで(嗚呼、情けない!)
自分の不用意な発言と、牙に腹が立つ

……そうだ
自分の牙が、怖いのならば、


「そう言ってくれるのは、ありがたいな……当たり前だが、俺は、もう二度とお前を傷つけない。約束しよう」


……今、誓ってしまえば良い
お前の為なら、俺は何でも出来るのだから


「ふふ、ありがとう。もうあの時みたいな怖い思いはやだな」


そう、そんな風に笑っていてくれ
お前には、その表情が良く似合う

……だから、どうか、早く








「勿論だ」








牙が飛び出す前に、俺を愛してくれないか





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