机の上に放り出された本を、気まぐれにパラリとめくる








白紙同然








動作に特に意味はない
何となく目についたから、パラパラと音を立ててページを捲っているだけ
だから、どれだけ目を走らせようとも中身は少しも記憶に残らない






「……君らしくも無い」






紙が擦れる音以外に何も音の無かった空間に突如響いたのは、くぐもった声
こんな声の主は、一人しかいない


「……バブルか。お前こそ、らしくないな。どうしたんだ?」


基本、人の行動にバブルは無関心だ
誰が何をしようとも、声をかけるようなことは皆無と言って良い


「自分の本を取りに来たら悪い?」


「いや……なら返そう。悪かったな」


本を閉じて差し出す
けれど何故か、バブルはそれを受取ろうとはしない


「……ねぇ、メタル。君は変わったね。今まではこんなこと無かった」


「さっきから何だ。何が言いたい?」


半分ほど伏せられた目が俺を見つめている
感情の読みとれないそれが、不意に細くなり、そして






「……アハ、アハハハ!!……まだ気がつかないの?その本は、君のじゃないか!」






初めて聞く、笑い声をあげた
その声に、手元を見ると……確かに、これは自分の所有物だ


「バブル」


「いやだな、そんな顔しないでよ。君が気がつかなかったんじゃないか……ホント、変わったね。良い意味でも悪い意味でも、戦闘用らしくなくなったよ」


「…………」


変わった
確かに変わったのだろう、自覚がある
ただ、誰かに指摘されるとは思ってもみなかった


「いやぁ、凄いねぇロックマンは。それとも凄いのは恋愛感情?まぁ、僕には関係ないことだけどね」


「バブル、何故」


「知っているかって?ホント、君は変わったねぇ……ロックマン以外見えていない。それ以外が本当にどうでも良くなってる」


それもまた、自覚がある
今の俺は、ロックマン以外が心底どうでも良いらしい


「だからさ、メタル。一つだけ、傍観者から忠告をしてあげるよ」


やはりバブルの目から感情は読み取ることは出来ない






「君は変わったよ。表面的にはとても丸くなった……でも、抑え込んでいる部分は一層残忍になった。君自身が、自覚している以上にね」






くぐもった声で淀みなく発せられた言葉は、自分でも驚くほどアッサリと沁み込んでいく
そういうことか、と
だから声が、牙が怖かったのだと合点がいった


「……バブル、どうしてわざわざお前の徳にもならないことを?」


無関心故に、バブルは自分に利益の無い事には一切かかわらない
ある意味、一番戦闘用らしい性格をしていると言えるだろう


「……興味があるんだ」


「興味?」


一体何に興味があるというのだろう
今まで、そんなもの持ったことも無かった癖に


「うん、興味。初めてだよ、こんな感情持ったの」


心なしか、跳ねるような声で発せられる言葉
……ああ、お前も変わったんだな
俺とは違い、多分良い方向に








「だからさ、見せてよ。君が本当に『心の底から』変われるかどうかをさ」








「……良いだろう。すぐ見せてやるさ」


俺たちは一体、どう変わっていくのだろう
その答えは、まだどこにもないけれど








ロックマン、お前の為に、俺の為に……バブルの為に、変わって見せようじゃあないか





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