わかってるよ
椅子の背に寄りかかってため息を吐く。これでもう、何度めになるだろう。ロールがいたら、きっと呆れてるくらいの数なのは分かる。原因は、ある一人からの、プラスの感情。悪い気はしないよ。だって前よりはずっと良いと思うもの。
ただ、だからこそ僕はちょっとだけ困ってしまうんだ。
「どうしよう……」
ため息の原因。目の前にある机の上には、鮮やかな紅色のバラの花束だ。
僕にはちょっと似合わない気がするそれは、メタルマンから貰ったもの。
「受け取ってほしい」
真剣な眼差しで、そう言いながら差し出された花束。何もかもを切断するブレードではない、それでもちょっと取り扱い注意な、綺麗な花束。
「でも、僕……そんな……受け取れないよ」
でも、受け取れないと僕は思った。
だって僕は、何故メタルマンがそれを渡してくるのかを知っているから。応えることができないから、僕には受け取れない。
でも、メタルマンは少し笑いながら言ったんだ。
「別に今すぐ俺の気持ちに応えてくれなくていい。ただ……これはお前の為だけに用意したんだ。受け取ってくれないか、ロックマン」
そう言われたらもう、断れなくて。……僕は流されるままに受け取ってしまった。
「でも……なぁ。どうしよう」
持って帰ってきたものの、博士やロールに何て説明をすればいいんだろう。
ワイリー博士が制作した戦闘用ロボットであるメタルマンから花束を貰いました……なんて二人には言えないよ。勿論二人共、DWNだからって頭ごなしに全てを悪く捉えないのは分かってる。でも、理由がないのに渡してくるわけがないのも事実だから。その理由が……とてもじゃないけど言えない。
「本当にどうしたら……あれ?」
そっと引き寄せた花束をよく見ると、内側に何かある。
手に取ってみると、小さなメッセージカードだった。二つ折りにしてあるそれを開くと、中には
『この前は助けていただいてありがとうございました。私の店で今日一番綺麗だった薔薇です。お礼に受け取ってください』
そんな言葉が少し歪な、女の人が書いたような小さな文字で書いてあった。
「……? 何でこんな……」
意味がよくわからない。
メタルマンから貰った花束のカードのメッセージなのに……?
「お前の為だけに用意したんだ」
真剣な目で言われたあの言葉。あれは嘘なんかじゃないと思う。じゃあ何で……?
――少し考えて、頭に一つの理由が浮かんだ。
多分そうなんだと思う。でも、本当にそうだったらどうしよう。
「僕が、困らないように……?」
博士やロールに花束の事を聞かれても困らないように、わざわざ、女の人が書いたような文字のカードを付けて。
気持ちを押し付けてきているのに、どうして、どうしてそんなことを貴方はするの?
「……」
別に本気にしてなかったわけじゃない。わかってるつもりだったよ。
でも……僕が思っていたよりずっとずっと、貴方は僕の事を?
でも、だからこそ
「こんなことされたら、困っちゃうよ」
カードはそっとポケットに仕舞って、博士たちには本当のことを言おう。
今すぐ貴方の気持ちに応えられない僕からの、それが精一杯だから。