ぞろり、としたあの感触が離れない
ぬらり、と光った眼が、舌が、鱗が離れない








不可視








身体を這っていった指の、舌の感触が離れない
むしろ、今もそれらが絡みついているような嫌な気分だ


「……気持ちが悪い」


薄れない感触が、消えない記憶が、全てが気持ち悪い
その数時間前の記憶が強烈すぎて、それ以外事がほとんど頭に入ってこない
忘れてしまいたいのに、悪質なバグのように消去できない
かといって、博士に消去も頼めない
こんなデータを見られるくらいだったら……死んだ方がマシだ


「…………風にでも当たるか」


気休めでも良い、もしかしたら薄れるかもしれない
この身体に残る何かが少しでも薄れるならば、それで良いと思った








「…………」


研究所の外は当たり前だが静かで、今の俺にはとても心地よかった


(しかし……何で……)


スネークは何故あんな事をしたのだろうか
近づくな、と言われれば近づきたくなる……とは言っていたが、そんな言葉だけでは理由にならない
そんな理由であんな事をされたのだと、信じたくなんかない


(……大体、あれは確か)


人型とはいえ所詮ロボットである自分たちにとっては不要の行為
通常そこに付随する感情を考えれば、スネークがそれを選択する意味が分からない
仮に、その感情があったとしても……いや、こんな仮定をしても仕方がない


(そんな事、あるはずがないのだから)








「…………!!」


誰かの気配に振り向く
……不幸なことに、やって来たのは、一番会いたくない男


「こんな所で何してんだ?……ああ、もしかして俺を待ってたとか?」


「……違う」


何故、待つ必要がある
お前の所為で俺はボロボロだというのに


「そんな顔で否定したって嘘にしか聞こえねーぜ?ジェミニちゃん」


そんな顔?俺は今どんな顔をしているというんだ


「ジェミニ」


名前を呼ばれる
絡みつく、その声が、触れる指が
触るな、俺に触るな近寄るな……!








「なぁ、俺を待ってたんだろう?他の誰でもない、俺を」


何かが、見えない何かが絡みついて、否定はできなかった





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