ビーナスの話
お加減はどのような?……そうですか。なら、良かったです。折角間に合ったのだから、僕だって出て欲しいですし。いや、待ちませんよ。僕がどれだけ彼女を待たせてしまったと思ってるんです?いくら貴方がたでも、それだけは無理です。もう少し、もう少しだけでも早く生まれていれば、と思ったことは数え切れないほどあります。僕はいつでも彼女を追いかけるばかりで、手を引いてもらうばかりで。最初のプレゼントだって……本当に、子供で。ほら、ファンシーショップあるでしょう?貴方は行ったこと……ああ、やっぱりないんですね。そこに二人で行って、沢山並んでいるヘアゴムとヘアピンを。これが同い年なら、似合いだったんですけど、彼女は僕と出会った頃にはもう、中学生でした。……彼女は何でも似合いますけどね?それでも、随分と子供っぽい趣味だと周囲には思われていたんじゃないかと。親や家にお金があっても、結局小学生のお小遣いなんてたかが知れてますからね。そういうものが精々で。……そう思うと、いくら本人名義の口座に入ってる分とはいえ、ネプチューンさんのお金の使い方ってどう考えてもおかしいかったですよね。サターンさんも前借りで済むのかそれ?と思いましたけど。
話が逸れました。……だから、結構最近まで彼女は僕に合わせて、もう好きでもなんでもないそういうものを欲しがっていたんじゃないか、そうずっと思っていたんです。だから、彼女と二人で行った店とは違う、宝飾店で、僕よりずっと大人で、素敵な彼女に似合う、そういうものを選んだつもりでした。
指輪も、それを渡す為に予約した店も、終わってから思えば随分、背伸びをした選択だったと思います。終わってからならいくらでも改善点が出てくるから嫌になる。けど……、
「夢みたい」
彼女は、ずっと変わらない、輝くような笑顔でそう言いました。直ぐにその綺麗な目からはぼろぼろと涙が落ちましたけど。
「……ワタシね、ずっとね、こんな日がくればいいなって思ってた。でも、それと同じくらい、そんな日はこないだろうなって思ってたの」
「それは……」
「キミはきっと、大きくなって世界の広さに気がつくと思ってた。……でも」
「貴方以上に素敵な方なんてどこにもいないのに?」
「そう言ってくれるんだね、キミは。……ワタシの、素敵な王子様」
「貴方こそ、僕以外の選択肢なんていくらでもあったんじゃないですか。それでも……僕に、笑ってくれるんですね」
彼女は、今でも僕が昔に買ったヘアゴムやヘアピン……他にも色々、沢山のものを、保管していました。全部大好きなんだと、はにかんで。僕は勝手に、合わせてくれたのだとばかり思っていたけれど……そうではなかった。やはり、僕はまだ子供なんですね。彼女はずっと大人で、でも誰よりも子供みたいで。
「貴方はずっと、これからも綺麗で素敵な、僕のお姫様です。……隣にいてくれますか?」
そんな彼女に、僕はこれからも素敵な、大好きなアクセサリーを、いっぱい買ってあげようと思うんです。