クリスタルの話
……。……何故皆ちゃんと話すんです?これでは私だけパス、なんて出来ないじゃないですか、もう。別にそういう意味で厄介ではありませんよ?これでも私、そういうトラブルは一度も遭遇したことがないんです。悪運が強い?なんとでもどうぞ。
出会い……ですか。別に普通ですよ。定期を落とした瞬間を見たので、拾って渡した。それだけです。……それだけで終われば良かったんですが。その時はバイト前だったので、お礼をというのを断ってしまったんですよね。それがまずい方向に行くとは。
ええ、先月ほら……隣のクラスのあのグループ……そう、そちらから話が。執念深い男って嫌ですね。制服と外見から特定されてしまって。まあ、別にそういうのは初めてではないですけども。断りたかったのですが、あの皆様にノーを突きつけると今後が面倒になりそうでしょう?面倒と面倒を秤にかけて、普段の生活と遠い方を選んだんです。それに、アカウント教えていいかというだけでしたし?直接会おうとかではなかったので……いえ、やはりそれで油断したんですかね。多分そうです。
「この前は本当にありがとう」
「いいえお気になさらず」
感じ悪い?それはそうでしょう。親切心が面倒事になっているんですから。
「怒ってるよね?ごめん」
こういう言い方、卑怯だと思うんですよね。否定しないとまるでこっちが人でなしみたいになってしまいますし。さてどう返すのがマシになるのか、と通知だけ見て考えていました。
「ならこれで仕舞いということで。貴方は感謝を伝えて、私はそれを受け取った」
最善手は適当なスタンプつけて終了、だったと思うんですけどね。覚えてないですけど、多分その時の私は虫の居所が悪かったのでしょう。
「そうだね。本当にありがとう。ごめんね」
ですから、その返事は模範解答だった筈なのに。
……、あの、そういう顔するの止めてもらえません?確かに、ああいう反応をされるのは初めてでしたけど。この容姿ですので。自分で言うな?でも、自認を持って生きていかないと割と面倒なんですよ。貴方達以外にこんな事言えませんけど。
ですから、逆にそれ以上忘れられなかったんでしょうね。会話履歴なら消せますけど、記憶はそうもいかない。
「――え、あ、マジで?」
それから数日経って、これです。人の顔を見るなりご挨拶だと思いませんか。とはいえ、あちらからすれば予想外だったのは分かりますけどね。すれ違う程度ならあれども、まさか声をかけてくるなんて絶対ないと思っていたでしょう。私もそう思っていました。
「……何か、問題でも?」
「いや、俺はないけども?君は……嫌じゃないの。いや、確かにまた会いたいな、話がしたいなとは思ったけど」
「けど?」
「やー……ほら、君のアカウント聞いた子とか、その友達とか……みんな、君をちょっと、あんまり良くないように言うから。それでも教えてくれたから、根っから悪い子達じゃないと思うけどね。そこで止めようかとも思ったんだけど、逆にそれはそれで面倒かけそうだし。で、連絡して、ああだったから。君は俺みたいな、あわよくばみたいな奴は本当に嫌なんだろうなって」
「……」
世の男共は皆そういう視点を持つべきですよ全く。誰も彼も、自分が下心持っている癖に、私のせいにする。ならばとこちらも、適当にあしらってやりましたけれど。
「珍しい人ですね」
「褒められてるのかな?」
「割と。……で、今度はどうします?千載一遇のチャンスですよ」
そう言って笑えば、まあチョロいんですけどもね。
……。……いや、これが厄介なんですよ。本当に。本当ですってば。
だって普通、どんなに外見が良くても超えちゃいけばいラインってあるじゃないですか。優しくするにも、わがままを許すにしろ、貢ぐにしろ限度があるというか。ないんですよ、いえこちらも学生の範疇には収めてますけども?最初は面白かったですけど、少し怖くなってきたとこです。
ああ、はい、そうですね。好奇心は猫を殺す。……私はずっと、猫を殺す側だと、思っていたんですが、ねえ。