白黒的絡繰機譚

さいしょのきっかけ

「みんな最近彼氏とどう?」

放課後の空き教室、下敷きなしにルーズリーフに書き込むと穴だらけになる古びた机を引っ付けて、コンビニで調達した菓子の袋を広げた。
とりあえず一つずつ食べてみよう、としばし流れていた無言を止めたのは、スターという名の少女であった。校則で髪ゴムは黒か茶色となっているが、彼女がそれを守ったことは一度もない。今日は水色に星のチャームがついたものをつけている。スターの趣味は大体小学生女子のそれに近い。

「お前またそれ?」

うげ、と心底嫌そうな顔をしたのはジャイロであった。冬服をきっちり着込むとまだ昼間には汗ばむ季節であるが、彼女はカッターシャツの下にハイネックのアンダーまで着ている。曰く「お前らと違ってないから寒いんだよ」とのことである。
菓子を囲んでいる8人の中で一番彼氏と続いているお陰で、大抵喋らされる羽目になるのでジャイロはこの話題になるのが苦手だった。

「えー、だってなんか色々みんなあったみたいだし?ほら、ナパーム外泊届さっき出してたじゃん」

皆が一斉にナパームの方を見た。本人はいつもどおり、何を考えているのか分からない真顔で紙パックのココアをストローで吸っている。

「……大型アプデが来たので」
「あー、ゲームの?」
「なんだ、そっちか」

所謂ゲーム廃人に踏み込みかけている彼女が、アプデの度に休日寮を出るのは何時ものことであった。それでも、どうやら彼氏がいるらしいとは皆聞き及んでいる。が、彼女の休日がゲーム以外に使われているところは一度も無い。一体どうやって彼氏を作り、続いているのだろうか。

「あと私の前に外泊届を出しただろう……ウェーブ」

突然名前を出されたウェーブの肩が面白いくらい跳ねる。少し顔が青ざめているように見えたが、常のことなので誰も気にしない。

「だ、だって……来いって言うから……」
「いつ聞いてもかわいそう」
「現代でも身売りってあるんだな」
「かわいそうだからこれやるわ」

長い髪を高めに結んだチャージがウェーブの手に一口羊羹を握らせる。彼女の持ち寄る菓子は「おばあちゃんのチョイス」と毎度言われている。今日は海老満月を持ってきていた。それに続いてストーンも小袋に入ったコーヒーピーをウェーブの手に載せた。こちらは毎度酒飲みのチョイスである。

「ありがとう……?」
「そういやクリスタルの新しい彼氏は?」

一瞬クリスタルが遠い目をする。誰も気が付かなかったが。
所謂美少女、という見た目のクリスタルはモテる。それのせいか、本人の性格のせいか、彼氏が兎に角頻繁に変わっていた。

「ちょっと厄介なの引きました。今回ばかりは反省していますよ、ええ」
「反省しないに100円」
「私も」
「賭けが成立しないにょ」
「皆私を何だと思ってるんです?というか、話を聞く限りグラビティーのも厄介なやつでは?」

クリスタルの言葉にグラビティーは首を傾げる。成長期に賭けたのであろう大きめのブレザーの袖には、クレープ菓子のクズがもう大量についている。上手く食べられた試しがないのに、彼女はこういう菓子を好いていた。

「そんなでもないと思うけどなあ~?ちょっと連絡が多いだけだにょ」
「ちょっとの基準が壊れる」
「でーきた!」

スターが声を上げて立ち上がる。

「さっきから静かだと思ったら何してんだお前」
「あみだ書いたから!順番にお話しよ!」

何の、とは聞き返す必要もない。
皆それぞれ嫌そうな顔はしたが、差し出されたルーズリーフにめいめい名前を書いたのであった。







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