グレナデンシロップの顔とキス
「やあ、お疲れ」「き、キースさん!」
バイトを終え、従業員用出入り口を開けると、そこには何時かと同じ様にキースがいた。
「もうそろそろ終わるんじゃないかと思ってね。勝手だけど待っていたよ」
迷惑だったかな?とキースが言う。イワンはぶんぶんと大げさに首を振ってそれを否定した。
迷惑な訳がない。それどころかとても嬉しいというのに。
「あの、キースさん」
「なんだい?」
「明日は休みだ、って言いましたよね」
昼間、明日は休みだから一緒にいられるかな?と聞かれた。
珍しく今日はその時間帯も混んでおり、忙しさに振り回されていたイワンは、キースの問いにちゃんと答える事が出来ないままだった。
「ああ、言ったとも」
「じゃあ、ですね……。その……今から、キースさんの家に、行っても良いです、か」
キョトンとした顔でキースがイワンを見つめる。その視線が気まずくて、思わずイワンは顔を背けた。
「……困るな」
「え……?」
ぎゅう、とキースがイワンを抱きしめる。
「そんな事を言われて、私が断れるとでも?だが、困る。とても困るんだ」
「え、え?」
「せめて……せめてハイスクールを卒業するまでは我慢しなければ、と思っているのに。そんな台詞を、そんな可愛い顔で言われたら、我慢しきれる自信がない」
一体何を我慢するのか。それが分からない程イワンは鈍くも、疎くもなかった。
恥ずかしさに背けたままの顔を正面に戻す事が出来ない。
「……さて、どうするかい?勿論我慢するけれど、そんな男と一緒は嫌だ……そう思うのなら、止めた方が良い」
「……」
イワンはきゅう、と抱きしめる腕を掴んだ。まだ顔は背けたままで、正面へは戻せそうにない。
「止めないです……。朝から、決めてたんですから。……本当は、昼間店にキースさんが来た時に言おうと思っていたんですけど、今日は忙しくてそんな暇がなくて。バイト終わったら電話しようと思ってたんです……」
一言一言言葉を紡ぐごとに、全身の体温が上がっていく。キースが我慢するような事を望んでの申し出と言うつもりではなかった。けれど、それを意識してしまった今、平常心でキースの家へと向かう事が出来る気はしない。
それでも、撤回するつもりはなかった。――恋人の家に行きたい、と思う事はきっと、普通の筈だから。
「だから、キースさんが良かったら、お願いします」
「君は……どうしてこう、私を振り回すんだ」
キースがイワンの耳元でふう、と息を吐く。
「言った通り、私に断れる訳がない。……だから、覚悟しておいてほしい」
とん、とキースがイワンを開放して肩を押した。
まだ赤い顔のままキースの方を見ると、イワンに負けず劣らず赤い顔をしている。
この人でもこんな顔をするんだ、とイワンはどこか冷静に感心する。
「我慢する分、君が嫌だといくら言っても止めてあげないよ。それくらい沢山、キスさせて欲しい」
言い終わるや否や、キースはイワンに深く深く口付けた。