お昼はベーグルサンド
ハイスクール内のオープンスペースにあるテーブルに腰を下ろし、紙袋から本日のランチを取り出す。オニオンベーグルに、家にあった具材を挟んだものを二つ。それと自動販売機で購入したグリーンティー。
べ―グルは、バイト先のドーナツショップの商品だ。社員割引という形で何時も半額程度で売ってもらっている。店に虎徹しかいない時は、更に割り引いてくれたりもする。『バニーちゃんには絶対に言うなよ』という一言を付け加えて。勿論……というかなんというか、それはもうとっくにバーナビーにはバレているのだが。知らないのは本人のみである。
「――イワン、お前さぁ」
正面に座るエドワードがイワンに話しかける。
彼が食べているのは、チーズバーガーだ。テーブルの上の紙袋には、それがまだいくつかとフライドポテトが入っているのだろう。年相応に食欲盛んなエドワードは、何時もそれで足りるのかとイワンのランチに苦言を漏らす。今日もそれだろうとイワンは唇を尖らせた。
「何?エドワード。何時も言ってるけど、僕はこれで充分なんだけど……」
「いや、そうじゃなくて。お前俺にさぁ、なんか隠してんだろ」
「え」
思わず吹き出しそうになるのを何とか堪えて、口の中のものを飲み込む。乾いてしまった口に、グリーンティーを流し込んだ。
そんなイワンを、エドワードは早く答えろという表情で見つめている。
「……」
確かに隠している事はある。自分と違って聡くて、頭が良くて、運動も出来る勿体ないくらいの親友に、何時までも隠し通せるとは思っていなかった。
けれども、一体なんと言えば良いのか。それがイワンには分からない。
「俺にも言えねぇ事かよ」
「……」
真っ直ぐに自分を見つめてくる視線が痛い。
正直に言ってしまっても良いと思う。何であろうと、親友に隠し事をするのは良くない筈だ。
(でもなぁ……。もしも、もしもエドワードが、気持ち悪がったらどうしよう)
いくら真剣でも、同性愛は同性愛。万人に受け入れられるものではない。それでも、気持ちは止められなかったし、止める気もなかった。
ただ、一つの愛と引き換えに一つの友情を失いたくはない、それだけだ。
「イワン」
「……エドワード」
イワンの手の中のベーグルは一向に減らない。エドワードはさっさとチーズバーガーを平らげてしまったというのに。
「言えよ。……別に俺は、他の奴らと違ってお前を責めようだとか、からかってやろうだとか思ってる訳じゃねぇし」
「それは知ってる、けど……」
唇を尖らせる。
「けど、なんだよ」
「……」
「イワン」
「……信じてるよ」
「ん?」
「言うよ。信じてるから……エドワードなら、大丈夫だって」
今イワンとエドワードがいるのは、全てを受け入れてくれる小さなドーナツショップではない。
不安は拭い切れない。でも、手に持ったベーグルのお陰だろうか。まるで誰かが耳元で大丈夫だと言ってくれている、そんな気がした。
「実はね……――」
耳に口を近づけて、簡潔に告げる。
――否定はしなかったものの、何故か怒り出したエドワードを宥める為に、とりあえず手つかずのベーグルサンドを差し出す羽目になろうとは、この時イワンは思いもしなかった。