白黒的絡繰機譚

ちょいこげ、焼きドーナツ

「……」
「あー、まあ、大丈夫だろ」
「でも……」
「大丈夫ですよ、恐らくですが」
「おい、そこは大丈夫だ!って言い切れよ」
「それは貴方もじゃないですか」

わあわあと言い合う虎徹とバーナビーの横で、イワンは小さく肩を落とす。
その両手が持っている天板の上には、店で出すには焼きすぎてしまったドーナツが6つ、並んでいた。

「大体、貴方が悪いんですよ。適当に店のドーナツと同じ時間でいいなんて言うから」
「何だよ俺の所為かよ!?お前だって『いいんじゃないですか』って言ってただろうが!」
「言ってません。そんな事」
「いーや、言ったね。な、イワン、言ったよな!?」
「僕は言ってませんよ。ねえ、先輩?」

ずい、と二人がイワンに詰め寄る。

「え、えと、その」

真実よりも、どちらの味方なのかと問われている状態に、イワンの胃がきり、と痛む。
口端に引きつらせながら、イワンはどう切り抜けようかと思案する。何時も、その答えが出た事はないのだが。

「――おーい!誰かいないのかい?」

店の方から、聞き慣れた声が響く。
イワンは天板を作業台に置くと、急いでそちらへと向かう。正直、助かった。

「キースさんっ」

扉を開けると、そこには何時も通り、一人の警察官がカウンター前に立っている。

「やあイワン、こんにちは。しかし駄目だよ。お客さんが誰もいないからって店を開けちゃ」

強盗に入ってくれと言っているようなものだよ。
そう言って少し困ったような顔をする。つられる様にイワンも困った顔をして、ごめんなさい、と謝った。

「次からは是非、気を付けるんだよ。ああ、何時ものお願いできるかな?」
「はい!」

イワンはトングを手に取り、何時もの――ブルーアイシングのたっぷりかかったドーナツ――を取ろうとした。

「こらこら、イワン違うだろ」
「店長……」

虎徹が奥の扉から顔を出し、手招きする。
何を言いたいか、させたいか分かっているだけに、それに従うのが躊躇われる。

「?」

何が何だか分からない、という風にキースが首を傾げている。

「出さねぇの」
「え、だってあれは……」
「大丈夫だって」
「でも……」

もごもごと口の中で拒否をするイワンでは埒が明かないと思ったのか、虎徹はキースの方を向き、そして言う。

「食いたいよな」
「ドーナツの事かい?勿論!」

卑怯だとイワンは思った。
状況を全く理解せずに言われた言葉である事は分かっていても、そう言われてしまえばイワンの中の選択肢が一つ、消えてしまうのだから。

「……だとよ。ほら、行くぞイワン。まだ最後の仕上げが残ってるだろ」
「あ!タイガー君、駄目だよ店を無人にしたら!」
「いや、お前がいれば大丈夫だろ」

何のための無料サービスだと思ってんだよ。
そうとだけ言って、虎徹はイワンを引き連れて奥へと引っ込んでしまう。
残されたのは、また首を傾げた警察官だけだった。






「――お待たせ、しました」

顔を背けてイワンが差し出したトレーの上には、何時もの様にホットコーヒーとドーナツが載っている。

「……あれ?今日はちょっと違ったサービスがされてるね!」

時折、イワンがクッキーなどを一緒にトレーへと載せてくれる事はある。けれど、今回足されていたのは、クッキーでもチョコレートでもなく、アイシングだった。
何時もはドーナツの上部分を覆うだけのアイシングが、今日に限っては全面を覆い尽くしている。

「え、あ、はい」

しどろもどろ、という風に返事をするイワンの後ろで、虎徹がニヤニヤと含みのある笑みを浮かべていた。

「ともかく、いただくよ!」

一口齧る。

「……ん?イワン、これ何時もと生地が違うね?」
「……」

イワンは顔を背けたまま、返事をしない。
虎徹はやはり、ニヤニヤと笑っている。

「あの、キースさん」
「何だい?」
「……おいしい、ですか」
「ああ、勿論!何時もより生地が軽くて、アイシングがよく合うよ!」

キースの返答に、イワンがようやくそちらを向く。
へにゃり、という風に力が抜けたら身体と顔は、妙に赤い。

「タイガー君、今日はイワンに何かあったのかい?」

――『キースさんに、手作りを出しちゃ駄目ですか』
恋人がそんな可愛い事を言っていた事実をキースが知るまで、後少し。







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