Xマークの特注品
最近の俺様は、どうも浮ついている。どっかのジュニア君みたいにバレバレじゃない営業スマイルなんて慣れたもんだった筈なのに、どうも上手くいかねぇ。スタッフに表情のダメ出しされるなんて、一体何年ぶりだ?
「真面目にしてください」
雑誌用の写真の撮影が終わって次への移動中のタクシーの中(ホントは俺様のバイクが良かったんだけど、スケジュール的に無理だったんだよなぁ、残念)俺の横でそんな小言を零すのは、この前オトしたばっかりの俺様専属秘書。シルバーブロンドにゴールドの瞳、ちょーっと目つきが悪いけど、まあそれでも十分な美人。つっても男だけどな。
俺と一度でも仕事した事ある奴は、みんなコイツを連れて歩く俺を見ると目ン玉丸くする。そりゃ俺だって、まさか美人は美人でも男を秘書にするとか想像もしなかったっつーの。でも惚れたな、って分かっちまったもんは仕方ねぇ。俺って遠距離恋愛向いてないし?それにコイツの性格的に、こうやって間近で毎日ちゃーんと俺様の愛を伝えてやらないとすぐ離れていっちまうだろうしな。……あ?別に怖い訳じゃねえっつの。
「真面目にやってるっての」
「そうは見えませんでしたが。……始終ニヤついてましたよ」
そう言ってあからさまに不機嫌な顔をする。ジュニア君もだったけど、すげー分かり易いの。本人はそれ、隠せてるって思ってるらしいけどな。あのオーナーさんもよく何年も手元に置いて気がつかなかったよな。
「だって仕方ねぇじゃん」
そう言って左手をくい、と持ち上げると不機嫌な顔が更に不機嫌に。別に俺はサドじゃねぇけど、こういう顔させるのは悪くねぇなぁ、って思ってる。
「……やるんじゃなかった」
おいおい、何を今更言ってんだか。もう貰っちまった……てかこれ元々俺のだし?
俺の左手首にあるのは、今年春モデルの新作腕時計。……なんだが、世界に誰一人として俺と同じ時計をつけている奴はいねぇ。そもそも、このモデルのカラーはシルバーとゴールドの二色だけで、俺のみたいに二色が混じったもんじゃない。じゃあどうしたかって?俺の横で顔を伏せちまったスウィートがやってくれたのさ。
人生の殆どを復讐に費やしてきたコイツだが、父親と同じように時計を弄る事だけは止められなかったらしい。遺品だと言っていた工具を使って市販の時計を分解して組み立て直すのが唯一の趣味だと聞いた。それを聞いた時、俺はカラーを決めかねていたこの腕時計を両方買って差し出した。「俺様に一番似合う様にしてくれよ」ってな。
「でもこれ、すげー評判良いぜ?みんな見てくるし」
「ですけど、改造品なんですからメディアには……」
「良いじゃん良いじゃん。寧ろブランドの方からお礼言われるだろこれ」
俺が言うと、溜息を吐いた。
「もうしませんから」
「えー」
「えー、じゃないです」
呆れるように言ってぷい、とそっぽ向いてしまう。全く可愛いね。
そんなジャレ合いをしてる間に次の現場に到着。さてさて、さっさと終わらせてディナーでも行きたいね。
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「――そういえば、素敵な時計ですね」
「あ、これ?良いだろ、俺のスウィートがやってくれたんだぜ」
「ライアン!」
だって自慢したいだろ?こんな素敵なんだから。
ちゅ、と見せつける様にベゼルにキス。しっかり撮れよ、そこのカメラ!