保護者は優しく笑う
朝と同じくらい身体が重い。……いや、むしろ更に重たくなっているのかも。
俺の中の悩みの種は増えるどころか、とっくに大樹にまで育っているかもしれないのだから。
ずるずると重い身体を引きずるようにして歩いて行けば、なんとか家に帰りついた。
「……ただいま」
「盾くん、おかえりなさい」
何時ものような笑顔で、母さんは俺を迎えてくれた。
……普通って、素晴らしい。
「盾くん、なんか今日は疲れてるみたい。大丈夫?」
「ん……別に、疲れてないし」
正直言おう、嘘だ。
つか、あんな出来事があって精神的に疲れない方がどうかしてる。
もし疲れない奴がいるんなら、俺はそいつを尊敬するね。
「そう……? 盾くんがそう言うんだったら良いんだけど……」
「そんな心配しなくっても大丈夫だって。自分の体調くらい管理できるし」
俺も高校生だし、それ位自分でできなくてどうするよ。
つか母さんに任せる方が心配だ。
「でも、何かあったら言ってね。盾くん溜めこんじゃうから心配なの」
……天然でも流石は母親、分かっていらっしゃる。
でも溜めこむ以外に何ができるって言うんだよ?
『男2人に言い寄られて困っています。挙句の果てにキスされました』なんて母親に相談できる息子は普通いない。
「んー……」
適当に返事をして、俺は自分の部屋へと入った。
「あー……」
鞄をほおり出して、ベッドにダイブ。
憂鬱だ。
もうどうしたら良いか分からない。
短い期間の間に、色々な常識的じゃないことが起こり過ぎて、頭がパンクしそうだ。
思いだすことすら面倒。
……色々と、考える必要性はあると思うけど、正直考えたくない。
「盾くん、ちょっと良いかしら?」
響くノックの音と、少し間延びした声。
疲れた所為で少し遅れた返事を聞く前に、母さんは扉を開けて入ってきた。
「……何? どうかしたの」
上体を起こしてそう聞けば、ちょっとだけ困った様に笑う。
「どうしたって言うか……盾くんこそどうしたの? 今日、何かあったんでしょう?」
「…………いや、別に」
バレてるのは分かってる。
でも、言える訳ないだろう?
「まぁ、言えない事もあるわよね。そういう年頃だものね」
分かってるなら、聞かなきゃ良いのに……。
親なんて、そんなもんなんだろうけど。
「でも、盾くん」
長年見てきた、見飽きた笑顔。
けど、何故か心に残る、そんな笑顔。
「お母さん、盾くんが選んだ事には何も反対しないわ」
それは何故かこちらが照れてしまいそうな程酷く綺麗で、そして……もしかしたら、全てを吐き出しても構わない様な、そんな気がした