白黒的絡繰機譚

日付が変われば常識人?

朝になる度に学校に行くのが憂鬱になる。
問題と原因は幾らでも増えていって、増えていくばかりで減る気配はない。
所謂ブタ的な扱いとどっちがマシなんだろう、とか考える様になってしまった時点で俺は相当終わっている。
もう自己嫌悪ってレベルじゃないよな、コレ。

「あー……」

起きて、飯食って、身支度して、鞄抱えて歩く。
ありえない状況になってるってのに『学校に行かない』という選択肢がないのは、幸運なのか不幸なのか。
いや、単に休んだら家に襲撃してくるのが分かり切ってるだけなんだけど。
どうやら俺は、この状況に順応してきてるらしい……。

「おはよう」

……ああ、この声、は。

「真道市……」

振り返れば、見慣れたイケメン。
自分から声をかけてきた癖に、俺が振りかえると何故か溜息を吐いた。

「顔、怖いよ。警戒されてるなぁ。別に何もしないのに……」
「……信用すると思ってるのか?」

記憶に新しい昨日の事。
未だに俺の首には絆創膏があるし……唇と記憶に感触が、ある。

「あれは部長が悪いんじゃないか。僕の事信用してくれないんだもの」
「…………」

何で俺が悪い事になるのか。
どっちかって言うと、俺は被害者だろ。

「それはまぁ、さておきさ。言ったでしょ? 僕は部長に嫌われたくないんだ」

だから何もしないってば、と真道市は言うけれど。
……いやいや待て待て、昨日その台詞を言われた後の事を思い出せ河野盾。

「そ、その直後にその……き、キスしてきたのはどこの誰だよ……!」

嫌われる事はしない、の後のアレだよ!
好きとか嫌いとか本気とか本気じゃないとかその前に、言ってる事とやってる事が矛盾してるだろ!

「まぁ、僕だね」

こうしれっと言うのが、何か様になってるのがムカつくんですけど。

「だ、だろ?だから……」
「……分かったよ」

真道市はまた息を吐く。

「じゃあ信用してもらえるよう頑張るから、覚悟しておいた方が良いよ?」
「……え」

覚悟。
覚悟……は多分、してる。
何の、とはあんまり考えたくないけど。

「僕も、先生も……本気なんだから。流石に分かってるだろうけど」

ああ、分かってる……というか、分からされた。
罰ゲームとかの、その場のノリとか雰囲気での男同士のキスは(出来れば無い方が良いけど)あるのは知ってる。
けど……それはその場限りでしかない。
でも、横の真道市も、鋼野もそんなんじゃないって事を俺はこの数日で身をもって知ってしまった訳で。
そこからどうするのか、どうなるのか、なんてのは俺にはまだ分からないけれど、どうにかしなくちゃいけないのは俺でしかなくて。
でもやっぱり、俺の思考は昨日とあんまり変わらずに、悩むだけで。

「……さあ、部長。急がないと遅れるよ?」

真道市の声ではっとする。
……そうだ、今は学校に行かなきゃいけない。

「……で、なんだよこの手」

何故か右隣から差し出される手。

「ん?折角だからちょっと繋いでみない?先生に見られるのが嫌って言うなら、学校近くなったら止めるよ」

ここでにっこり笑ってそう言う真道市は、流石イケメンの雰囲気ではあるのだけれど、

「……だ、誰が繋ぐか!」

残念、俺は男ですから、勿論拒否。
つか嫌がることしないんじゃなかったのかよ!