白黒的絡繰機譚

途中参戦者の証明行動

それは、俺をさらに驚愕させるのに十分すぎた。
昨日、鋼野に付けられたキスマーク。
朝、鋼野と魔導市のちょっとしたバトル。
俺の日常はなんでこう……変な方向ばっかり進むんだろう?
俺はごくありふれた男子高校生でしかないのに。
やっぱり、周りがおかしすぎるだけだろうか。

「やあ、部長」

そんなことを考えていた時、頭の上からその原因の一端を担う人物の声がした。

「…………魔導市」

違うクラスなのに、なんでここにいるんだ……?

「なかなか部活に来ないから心配になってね。もしかしたら帰ったのかとも思ったけど」
「……正直言えば、帰りたかったんだが」

無論、今も。

「まあ、そうだろうね。僕としては是非来てほしいんだけど」

クスリ、と軽く笑いながら魔導市が言う。
……そういう台詞は女子に言えばいいと思う。
俺なんかに言っても仕方ないのに。

「…………」

そもそも、コイツが俺を好きって言うのがおかしいじゃないか。
変人の鋼野は置いといて、コイツはモテるから俺なんかを好きにならなくても良いだろうに。

「ん、僕の顔に何か付いてる?」
「……え、いや、何も……」

何時の間にか見つめていたらしい。

「部長、僕が気になる?」
「……そりゃ、まあ、少しは」

あんなことがあって気にしない奴がいたらお目にかかりたいもんだ。

「その割には落ち着いてるよね。二人きりだし先生みたいに何かされるかも、とは思わないの?」

……あれはどう考えても行動派だからな。
色々やられたし、身構えとかなければ危険だろうけども……正直魔導市同じようなことをするというのが想像できない。

「……何かする気なのか?」
「うーん、したくないと言ったら嘘になるけど、部長に嫌われたくないし、しないよ」

やっぱり、鋼野とは違う。
というかこれが普通だろ、俺<。br> 鋼野を基準にしちゃ駄目だ。

「なら別に落ち着いてたって良いだろ」
「それもなんだかねぇ……」
「……一体何なんだよ。ハッキリ言えよ」

最近、特に昨日からの出来事に俺の頭はもうついていけていない。
もう考えてられないから、言ってもらわなくちゃ分からない。

「じゃあハッキリ言わせてもらうけど、正直部長、僕の朝言ったこと信じてないでしょう」
「……は?」

一体何を言い出すのやら。

「だって顔に出てる。僕ってそんなに信用ない?」
「…………」

別に魔導市が信用できない訳じゃないが……あの発言に関してはそのまま『はいそうですか』と言う訳には流石にいかない。

「先生の方はちゃんと信じてるみたいだけど。まあ分かりやすいからね」

『いきなり告白+親に勝手に宣言+キスマーク』とかのコンボをやられたらな……。

「なんていうか……部長にはさ、言葉より行動の方が分かりやすいみたいだね」
「へ?」
「だから、僕も先生みたいに行動で示したら分かってもらえるかな?」

魔導市の手が頬に触れる。

「……え。ちょ……!」

魔導市の、それは、
それはゆっくり近づいてきて、
触れただけのくせに随分長く感じた、そんなキスだった。

「少しは僕が本気だってこと、分かってくれた?」
「…………」
「流石にね、好きでもない人にキスできるほど安い男じゃないんだ」

つまり、それは、朝のことは、ほんとう?

「……じゃあ、今日はこの辺で。部長、また明日」

そう言って微笑んだ魔導市の顔は、多分誰も見たことがないモノ、そんな気がした。
……自意識過剰かもしれないけど。







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