白黒的絡繰機譚

中心人物の受難

叫ぼうか、囁こうか、それとも歌おうか?

「……全部却下」
「えー何だよ盾。ノリ悪くね?」

夕方、どこにでもある全国チェーンのファミレス、店の奥の方のテーブル、手元にはメロンソーダ。
……正面に座るは担任・鋼野剣。

「ノリの問題じゃねーだろ!!大体そんな痛いこと本当にする奴いるか!」

頭が痛い。
メロンソーダにつられてしまったことを激しく後悔した。

「誰もしないからこそ効果があるだろ?」
「……効果があるとかじゃなくて……大体、前提からしておかしいだろ……どう考えても……」

俺は頭を抱えて、溜息を吐くことしか出来なかった。
ことの始まりはアレだ。
鋼野が母さんに『俺と付き合っている』というとても間違った認識を植え付けることに成功してしまった所為だ。
家族の公認(してほしくもなかったが)があれば、何も怖いものはない……ということだろうか。
本日終礼後すぐ鋼野は俺をメロンソーダで釣り、このファミレスに連れ込んでこう言った。

「なぁ、盾。俺さ、学校の奴らにお前と付き合ってること言いたいんだけど」
「……………………はぁ?!!!」

アホで常識のない奴だと思っていたけれど、ここまでとは……。
てか付き合ってねーっつの!それはテメーの妄想だろうが!

「で、普通に言うだけつまんねーだろ?なんかこう、インパクトのある方法ねぇかな?」
「何勝手に話進めてんだー!つか男同士のカップル公言以上のインパクトなんぞいらんわ!!」
「盾、嫌か?」
「普通嫌だろそんなもん!」

俺の本気の拒絶が伝わってくれたのか、鋼野はちょっとだけシュン、として諦めたかのように見えた……一瞬は。

「んー……じゃ、これで良いか」

テーブルを越えて、鋼野の顔が迫る。

「なに……ひゃぁ……痛……っ」

首に残る、ちりりとした痛み。

「おー、思った以上に綺麗に残ったな。盾、ちゃーんと明日、隠さずに来いよ?」
「へ……?なに……を?」
「キスマーク」

キスマーク。
ってもしかしてアレか、アレなのか。
俺の首筋にはアレが今あるというのか。

「じゃ、また明日な!」

俺が何も言い返せずにいる間に鋼野は伝票を持って立ち上がった。
……オマケに、頬にキスまでして。

「……どーしよー……」

残ったのは動けない俺と、氷がすっかり溶けたメロンソーダ。
きっと俺は明日の朝、絆創膏を片手に遅刻ギリギリまで悩む羽目になるのだろう。







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