白黒的絡繰機譚

傍観者ゆえに

家庭訪問にかこつけて俺の母さんと仲良くなってしまった鋼野は、今日も俺の家にいた。

「お、盾遅かったな」
「何でさっきまで教室いたアンタの方が早いんだよ!!」
「ふふ……勇者である俺が盾に負けるはずないだろう?」


負けるも何も、競ってねぇし……。

「大体! 今日は何しに来たんだよ!家庭訪問ならこの前やったじゃねーか!」
「今日はな……それより大切な用事があったんだ」

大切な用事……?
また何か嫌な予感がするな……。

「先生待たせてごめんなさい……あら、盾くん帰ってたのね」

帰ってたの、じゃなくてさぁ……
こんな見た目も中身も怪しい人間を家に上げるなっての!

「母さん! なんでコイツを家に入れてんだよ!」
「盾くん、先生に向かって『コイツ』なんて……それに今日は私がお呼びしたのよ」


「そーだぞ盾。どうしてもパワプロのリベンジがしたいって言うからこうやってわざわざ来たんだぞ」
「…………」

何かもう、何も言う気になれない。
因みにテレビに映っているパワプロは、一回表鋼野の攻撃で104対0(前回より酷くなってんじゃん!)
とりあえず、電源切ってやった。

「あ、ちょ、盾!!」
「……帰れ!今すぐ帰れ!!」

これ以上俺に干渉しないでほしい。
一体どれだけ俺と関われば気が済むんだよ?

「盾くん、失礼じゃない!」
「あー、良いんですよお母さん。照れてるだけですって」
「だから都合のいい解釈するな!」
「あら、やっぱり」

母さん、何が『やっぱり』なんだよ!

「先生、この子ったらね最近学校の話をよくしてくれるようになったんですけど、先生のこと沢山話してくれるんですよ」
「へぇ……嬉しいなぁ」

ニヤニヤしながら俺を見るな!
大体、母さんに話してるアンタのことは100%愚痴だからな!

「で、やっぱり盾くん、先生に懐いてるみたい」
「懐いてねぇ!!」
「やっぱり母親は息子のことを分かってますねぇ」

絶対分かってない。
世間の母親は知らないけれど、ウチは絶対分かってない……。
俺がそんな感じで気分が滅入っているところに、鋼野はしっかり追い打ちをかけてきた。

「いやぁ、盾。これなら大丈夫そうだな!」
「……何がだよ」
「あ?決まってんだろ。俺とお前の『オツキアイ』についてだよ」
「…………はぁ?!」

『オツキアイ』って何だ。
もしかして普通は男と女がするあのアレなのか。
だとしたら、何で俺と鋼野がしなくてはいけないんだ。

「告白の次はそりゃ『オツキアイ』スタートだろーが」
「こくはく、って」

もしやこの前のアレなのだろうか。
確かに俺は鋼野に告白された、と言えるだろう。
でも断じて俺はその告白に返事など返していないし(本人もそこはどうでも良いようだった)返したとしても了承なぞ絶対にしない。

「……『オツキアイ』?盾くんが……先生と?」

母さん、頼むからこの繋がらない会話に入ってこないで!
俺の立場がますます悪くなるだけだから!

「ええ、そうなんですよー。スイマセン挨拶にも来なくて」
「…………」

母さん、頼むからこの勘違い野郎に一言、ビシッと言ってやってくれ……!
息子のこれからがかかってんだよ……!

「いえいえ、良いんですよ。先生、ウチの子を宜しくお願いしますね」
「ちょ、母さん!!」
「こちらこそよろしくお願いします『義母さん』」
「お前も何言ってんだー!!」

俺の祈りも空しく、母さんは俺と鋼野の仲を誤認識してしまい、鋼野は上機嫌で帰っていった。
……その際に母さんの目の前でキスされそうになったのは勿論精一杯抵抗し、防いだ。

「……母さん」
「なに?盾くん」
「……何で『宜しくお願いします』なんて言ったのさ……」

俺の質問に、母さんは微笑んで答えた。

「だって先生、盾くんのこととても大切だ、っていう顔してたもの」
「うっそだー……」
「嘘じゃないわよ。それに盾くんだって」
「俺だって?」
「口ではあんなこと言ってても、先生のこと嫌いじゃないでしょう?」

……俺は母さんに何も言い返せなかった。







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