白黒的絡繰機譚

勇者というものは

ゲームの中じゃないこの現実にも、見えないルールがある……らしい。
それは、何の変哲もない放課後、だった。

「盾、ちょっと」

勇者だという担任は、何故か俺ばかりを構う。

「……俺もう帰りたいんだけど」
「あー、すぐ終わる」

気だるげにそう言うと、こっちへ来いと手招きをした。
仕方がないので鋼野の前まで行ってやる。


「……何だよ」
「愛してる」

いきなり、だった。
まるで何時も名前を呼ぶ時みたいに自然に、鋼野は言った。
俺はあまりにも予想外過ぎるこの展開に正直頭がついていかなくて、ただ立ち尽くしている。
そんな俺の様子をどう解釈したのか、鋼野はニィと笑って俺を抱きしめる。

「ちょ……、な、に」
「愛してる、盾」

何言ってんだこの(色々な意味で)変態教師。
突き飛ばしてやりたかったけど、俺の身体はがっちりと拘束されていて、そんなことは出来そうにない。

「はな……せ……!」
「なんで? ……あ、照れてんのか」

何でそうなるんだよ!勝手に都合の良い風に解釈すんな!
言いたいことだけ言って……あ、
そうだ、鋼野は自分の言いたいことだけしか言ってない。
完全に俺自身気持ちは無視してる。
普通、告白って返事ありきじゃなかろうか?

「まったく、盾は素直じゃないな」

素直って何だ。
男子高校生がいきなり同性の担任に告白されて、抱きつかれたので出来得る限りの抵抗するのは素直じゃないのか。
……もしかして、

「もしかして、……両思いだと思ってる……?」

いやいや、まさか。
それだけはない。絶対ない。てかないって言え。

「は?当たり前だろ?俺は勇者だからな」

オイオイオイオイオイ!!
『それは常識です』みたいな顔して言うな!
てか勇者関係ないだろ!

「んな訳あるか!!何で俺がテメーを好きな事になるんだよ!!あといい加減離れろ!」
「嫌だ」

更に激しく抵抗を試みるも叶わず、余計に力をこめられてしまった。

「放せ……って言ってんだろ……!」

早く解放されて、現実に戻りたい。
こんなの現実だなんて俺は認めない。

「……分かったよ」

やっと鋼野から解放される。
抱きしめられ続けていた身体は、少し軋むような気がした。

「盾、俺のこと本当に好きじゃないのか?」
「好きなわけないだろ」
「あー……まだ早かったか」

いやな予感がする。

「何が……?」
「タイミング。来月にしときゃ良かったなー」

タイミングの問題か?
てかホント俺が好きになること前提だな!

「大体、アンタ何でそんなに自信あんだよ」
「あ?決まってんだろ」

「勇者ってのは、本命とは両思いになれる職業だからな」

真剣な顔で、鋼野はそう言った。

「……ばっかじゃね?」

なんて理不尽な。

「お、盾信じてないな?」
「信じられる訳ねーだろ……」
「ま、そんなこと言ってられんのも今のうちだけだぞ。そのうち俺に自分から抱きつくようになる」
「……は? ふざけんな」

そんな事、絶対ない。
……でも、あまりにも自信たっぷりな鋼野にそう言えなかった。
だれか教えてください。
この理不尽な見えないルールは、本当に俺の気持ちを変えてしまうのでしょうか?







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