白黒的絡繰機譚

墜落急降下

『コンニチハ、ポンコツDWNのプロペラ野郎』

アイツが俺に初めてかけてきた言葉はコレだった。
ムカつくことにわざわざ上空から、マスク越しでも分かる程のにやけた表情のオマケまでついていたのを覚えている。

「――……お前、ホント丸くなったよなぁ」
「は?」

それが今はどうだ?
最初の頃の態度の悪さはどこへやら、俺の仕事を自主的に無償で手伝ってくれる程に飼いならされちゃってさ。
勿論、飼いならしたのは他ならぬ俺なんだけど。中々の忠犬が仕上がったと思う。

「ちょっと前まではあんなに突っかかってきたのにネー」
「……忘れろ。頼む、忘れてくれ」
「ヤダ」

そもそも、ロボットには記憶の風化なんてないし、記憶メモリーの自主的な消去も改竄も認められてない。
突発的なバグやなんやらで消える可能性はあれども、基本的に忘れたくても忘れられないんだよ、ロボットは。

「……ジャイロ」
「何だよ、怒ったか? 言っておくが、お前に怒られる理由は無いぞ。寧ろ俺が怒っても良い位なんだからな」

散々コケにしてくれやがって、なぁ?
……そりゃあ、少しは羨ましくもあった時期も無くは無いけれども、俺は俺である事が一番だと思っているからプロペラである事は問題なんかじゃない。
だけど、やっぱり言われると腹が立つ訳で。あの頃、無視に徹してた俺は正直偉いと思う。

「それは……そうなんだが。でもあれは……いや、何でも無い」
「ん?あれは、何だ?言ってみろよ」

ちょっと前までは思った事はすぐ口に出していた癖に、今や俺に反論されるのが嫌なのか、言いかけては止めることが多くなった。
けど、止めた言葉を引き出すのは凄く簡単で、ちょっと見つめてやればすぐ陥落する。

「……言えるか。馬鹿」

……のが常なんだが、今日はどうも違うらしい。
なんというか、生意気だ。
年下(あくまで設定精神年齢の話だが)の癖に……というかジュピターの癖に。

「言え」

でも言わなければ言わない程、俺が言わせようとするの、お前知ってるよな? だから、ちょっと顔を近づけて、上目遣いで笑ってやれば、今度こそ言うよな?
まったく、分かりやすい奴だよお前は。

「……お前の事が、気になって仕方なかったからだよ!知ってるだろうが!」

苦虫を噛み潰したような表情から引き出せたのは、そんな言葉。
……ああ、そういやそうだったっけ。そうだ、なんでこんな方法が通じるのかって、そういうことだからだ。
お前には悪いけど、時々忘れそうになるんだよ。だって、お前に好かれてる事が、もう自然になってるから。

「知ってるさ。十分……な」

無駄に余裕ぶってそう言ってやれば、お前は怒ったような顔をするけれど。
それは、ここを去る理由になんかならないらしい。何があっても俺を選ぶお前には、ホント感心するよ。

「お前は本当に……」
「ん?」
「……何でもない」

他人が見たら、こんな事をやって楽しいのかと呆れながら言うんだろう。
俺の答えは勿論イエス。相手がコイツだってのが多少ムカつく気もするが、それでも楽しいね。
そんな事を思って……ふと、自分が落ちているような、気がした。
何に、とは言わないし認めてなんて、やらないけど、それでも、なんか、なんとなく。

(諦めなさい、とクリスタルは言うんだろうか)







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