白黒的絡繰機譚

日常を壊す2文字の言葉

「俺さぁ、好きだわ。ハードの事」

例えば、俺達の創造主の片割れが立ち上がって何度目かもわからない宣言をした時。
――日常が壊れるのは、何時だって簡単だ。

「……笑えねぇ」

現場の休憩室でわざわざ何言ってんだコイツ。しかもヘラヘラしながらよ。
説得力もなんもない言葉に、返事してやっただけ俺は優しいよな。

「そりゃあ、冗談言ってる訳じゃないし。え、駄目?酷くない?」

駄目、って何がだよ。
つか冗談じゃねぇのかよ……。ホント、何言い出してんだコイツは。

「俺は凄い真剣なんだけどなー……。なぁ、本当に駄目?」

こんな風にヘラヘラしながら言われたことを、真剣に受け取る奴がいるかよ。
それに、だから何が駄目なんだっての。コイツが大雑把なのは知っちゃいるが、主語が足りないのはそれとはまた別の問題だ。

「……何がだよ。つったく面倒くせぇ……。お前の話は、言葉が足りねぇんだよ」

俺がそう言ってやると、ポカンとしたアホ面になる。
ま、元々コイツはアホ面だけどな。実際アホだし。

「あれ、そうなの?じゃあ、えーと……、俺、ハードの事好きなんだけど。だから、付き合って欲しいなーと思ってる訳で」
「……やっぱ笑えねーわ、それ」

真剣に受け取るには軽すぎるし、無かったことにするには重すぎる。
そんな事を言うアホの相手をしてやるのは本当に、面倒くせぇ。

「いや、別に冗談じゃないから笑わなくても良いんだけど。笑いは身体に良いんだけどね……。でさぁ、つまりそれは、駄目ってこと?」
「駄目とかそういう以前の問題だろ……」

遥か昔には、それを口に出すだけで大問題なんてこともあったらしい。ま、俺にゃ関係ないが。
関係あったとしても、別に偏見なんぞ無いけどよ。でも、俺はそういう嗜好じゃない。
……つか、お前だってそうじゃなかったと思う。別にわざわざ聞いたことはないし、恐らく聞かされたこともないとは思うが。

「えー?俺が一世一代の告白をしたって言うのにさ、ちょっと酷くない?」

……アレが一世一代だっていうなら、お前は言葉の使い方を盛大に間違えている。
普段からヘラヘラしたアホ面してるとは思ってたんだが、ここまでとは思わなかった。
アホ面にはアホ面の理由があるってことか。嫌な理由だが。

「なぁ、ハード。俺は本気だぞ。流石に俺だって、こんなこと冗談で言う程軽くないつもりなんだけど」

……だったら余計性質悪ぃじゃねーか。
アホ面を引き締めて、真っ直ぐにそんなこと言われれば、流石に真剣に受け取るしかない。
面倒くせぇ事にも、な。

「あー、そうかよ」

けど、俺にどうしろって言うんだよ。
付き合え?けど俺はそういう嗜好じゃない、性格じゃない。知ってんだろ、多分。

「……ハード」

ムスっとした声が俺を呼ぶ。
つったく……。だから、本当に俺にどうしろって言うんだよ?
俺が、お前の要求に答えると思ってんのか?流石にそれくらい分かってんだろ。つか分かれ。
お前は……別に、俺にどう思われてるかくらいとっくに、分かってるはずだろうが。
それなのにあんな事を言って、受け入れろってか?馬鹿かお前は。

「今だけ、だからな。そんな風に返事出来るのは今だけだからな」

……それ位、分かってるに決まってんだろ。
興味ねぇし、そんな嗜好じゃねぇけど、あんな事言われて、これからも適当に流せるなんて俺も思っちゃいねぇっての。
別に、お前の要求に応える気がある……という訳じゃねぇけど。

「面倒くせぇな、お前は」

だから今はもう、考えるのはやめておこう。







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