白黒的絡繰機譚

占い師様の言う通り

ほら、私はそういう事を生業としていますので?

「こんにちは」

いつもの如く、閑散とした空中庭園。客どころか管理人すら見当たらないそこでたまたま彼を見かけたので、声をかけてみました。ええ、たまたまです。

「あ、ああ……? こん、にちは……?」

どうやら彼――ジュピターは、私が声をかけた事に随分と驚かれた様子。
そういえば、声をおかけするのは初めてでしたっけ。お互いに存在は知っていましたけどね。

「ちょっと私とお話しませんか?ジャイロの事で」
「……!」

……ジャイロの名前を聞いた途端、面白い位キョドりましたね。
ジャイロが彼を分かりやすい奴、と言っていたのは本当のようです。他になんと言っていたか? さあなんでしょう。

「とりあえずお座りになりませんか? 立ち話もなんですからね」

近くにあったベンチを指してそう誘えば、アッサリと腰かけていただけました。
居心地悪そうにしてますけどね。

「で、その……俺にアイツの事で何を?」
「ジャイロの事というか、まぁ、正確には貴方の事ですね。どうしてジャイロを好きになったんですか?」

流石に率直に聞きすぎたでしょうか、目が泳いでいらっしゃいます。
でも、逃げさせてなぞあげませんよ?

「……」
「……」

流れる沈黙も、私とあの子の間では酷い差があるのでしょう。
私はこの沈黙を待つ事が出来ますが、あの子は恐らく待てないでしょうから。

「……アイツが、何を言おうとも揺らがない自己を持っていた、から」

私には短く、彼にとっては酷く長い沈黙の後、観念したように吐いたのはそんな言葉でした。

「……笑うか?」

もう笑われた後のような顔をして、彼は私に聞きました。

「笑いませんよ。とても納得しました。それを理解していないと、ジャイロとは付き合っていけませんから」

自尊心が強くて、人を見下しがちで、掴み所が無くて、自分から孤立しようとするような変わったロボット。
ちょっと前の貴方は、そこが苛立って仕方なかったんでしょう。自分より上がいるのに、どうしてそう保っていられるのかと。
けれども、彼のその部分に惹かれたというのなら……それはきっと本物なのでしょう。
羨ましい限りですよ。

「で、こんなことを聞いて、アンタはどうする気なんだ?」
「どうもしませんよ。興味本位です」
「……嘘だな」

おや、バレましたか。
結構得意な方だと思っていたんですけどね。
流石に訓練積んでる方は違うと感心すべきでしょうか。ジャイロの言動は読みが必要ですし。
本当に、あの子は捻くれている。

「でも、貴方に不利益になる様な事はしませんよ。約束します。私は是非とも貴方とジャイロには幸せになって欲しいと思っているので」

……何ですかその何時ぞやのジャイロと同じ目は。私ってそんなに信用ないですか?

「……まぁ、どう思っていただいても結構ですよ。私は基本的に傍観者ですので」

貴方達は見ているのが楽しいですからね。勿論、ちょっかいかけるのも楽しいですけれど。
それは後の楽しみにでもしときましょうかね。

「でも一つだけ、良い事を教えて差し上げましょう」

私の真意なんて、本当に一つしかないんですよ。
そう言っても、信じてもらえない事が多いのですが。

「もうすぐ、ですよ。全ては順調に」

何が、とは言わない。
それでも、きっと貴方の希望になるでしょう。
嘘は言いませんよ私は。運命に嘘だけは、私は吐かない。

「そうか……。これで用事は済んだだろうか?」
「ええ、ありがとうございました」

私がそう言うと、彼は立ちあがって去って行きました。どこか嬉しそうな、それでいて困ったような顔をしていたのは見間違いではないのでしょう。
……それはきっと、私の後ろを随分と気にしていた事と、きっと関係があるのでしょう。




「――とても貴方にお似合いだと思いますよ、彼」

私の座るベンチの後ろの、更に後ろ。葉の青々しい広葉樹の枝の上には、話題の中心であったあの子が、やや居心地悪そうに小さくなっていました。

「……そうか?」

おや、随分と不機嫌そうですね。
そんな気分を損ねるようなこと話してましたっけ?
……それとも、ね。

「そうですよ。いい加減、気がついてあげたらどうですか」
「何にだよ」
「……可愛くない反応ですね。愛想尽かされたらどうするんですか?」
「あー……それは無いと思う」
「言い切りますね……。私もそう思いましたけど。ま、今日のところは良いです。でも、これを期に少しは真面目に考えて差し上げて下さいよ?」

その為にわざわざ、こんなことして差し上げたのですから。

「……少しはな」

まったく可愛げのない……。けど、だからこそ見守りがいがあるんですよ。
きっと、もうすぐ。後ほんの少しの、筈ですから。







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