白黒的絡繰機譚

声糸

――正直、失敗したと思った。
それは勿論、勢いに任せてあんな言葉を口にしてしまったことについて。
それさえなければ、俺は今、こんな状況にはいないんだ。

「……」
「どうした、早くしてみろ」

何でお前はそんな当たり前みたいな顔をして俺に命令するんだ。
しかもやけに余裕そうに。
俺が焦っている(認めたくないけれども)のを見て楽しんでいる風にもとれるような、笑顔を浮かべて。

「何だ、口だけか。つまらない男だな、お前」

どうせ実行したら軽蔑したような目で見る癖に言ってくれるよ。俺だってお前の性格くらい分かっているんだ
でも……。それなのにどうしてこんな状況を作ってしまったんだ。




――そもそも、大元を辿れば、原因は俺なのだ。とても不本意な事に。
そう、不本意にも、コイツに『好きだ』と言ってしまった事にある。
……別に、本心ではあったのだけれども、なんか不本意だ。
それに対して、コイツは一回はぐらかした後、幾分か経ってから如何にも渋々といった感じでこう言ってきた。

「一応、返事は保留」

一応って何だ一応って……。
でも、正直冷たい目で断られなかっただけマシといえるかもしれない。
そういうヤツなのだ、コイツは。
……で、それから2日が経った本日、いきなりコイツは俺に言った。

「何もしないんだな」と。

……売り言葉に、買い言葉というやつだろうか。
何をどう言ったのか、よく覚えていない。
けれど、どうしてか今、俺はコイツの両肩に手を置いていて、コイツと俺はマスクをしていない。
……つまりは、そういう状態といえる。

「……ジャイロ」

特に何も考えていなさそうな、いや、読めない無表情。目が多少笑っているような気がしなくもない。被害妄想が入っているかもしれないが。
……きっかけを作ったのはお前のくせに、なんでそんな涼しそうな顔なんだよ。

「ん?何だ」
「お、お前は……その、嫌じゃ、ないのか?」
「どうでもいい」

即答。
……ある意味『嫌だ』って言われるよりキツいんだが。いや、期待なんかしてなかったけどな……。

「そうかよ……」

だけれども、肩に置いた手を離す気にはならない。
こんなチャンス、多分当分来ない。
それに縋らなきゃいけない自分が滑稽だが、この際そこには目を瞑る。

「でも、まぁ……この2日考えてやったんだが、お前といえど好意を向けられるのは悪くないからな。少しは見返りをやろうかと思って」

ニヤリ、と笑ってそう言ったコイツは、なんだか悔しい程に艶めかしくて(本人には絶対言えない)ああ、コイツには勝てないんだな、と実感する。

「そりゃどうも……」
「ホラ、『お願いします』って言ってみろ。したいんだろ?」

首に両手をを回してそう言われてしまえば、もう逆らえない。
……情けないけれども。

「……オネガイシマス」

手順は一つ、口を開いて命令するだけ。それで、もう俺はお前の言う通り。
ああ、俺は何時からこんな男になったのだろう!(惚れた時から、なんて言ってはいけない)







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