白黒的絡繰機譚

決定的最高

マスクレス描写有り

「……なんだその顔は」

一瞬のような、1分のような1時間のような。いや、どうせコイツのことだから、俺が感じたより実際は早かったのだろう。兎も角そんなキス――そう、キスが終わって、離れた顔を見上げたらご覧の有様だ。

「いや……」
「言え」

鳥っぽいジェット野郎の癖になんだその犬みたいな面は。……何となく察しはついたがそのまま促す。逃しはしない。
コレをしたがったのはコイツの方だ。俺は寛大にもさせてやった立場。なら、ご感想の1つくらい貰っておかなきゃな?

「いや……お前ちゃんと腔内構造作ってあるんだなと……」
「ぶっ殺すぞ」

初対面から喧嘩吹っかけてきた馬鹿野郎らしい感想だ。確かに、俺を含む5thナンバーズははとにかく資金難が全面に出た作りになっている。だからって一言目がそれになるか?
普段はマスクをしている俺に口があって、中身もちゃんとしてるなんて予想外で宙返りでも出来るってわけか。このジェット野郎が。

「資金難だからって何でもかんでもダウングレードしたり、機能を抜きゃいいって訳でもないだろうが。基本設計は使い回した方が最終的に安上がりだろ」
「考えりゃそうなんだがな……」

はあ、と溜息が降ってくる。吐きたいのはこっちの方だ。コイツ、やっぱり俺のこと見下したままなんじゃないのか。

「ったく、折角させてやったのに」

別に後生大事に取っておく必要もないが、初体験の相手の感想がこれじゃ、どうしようもない。
コイツにそれを教えてやるつもりなんざ欠片もない。何故かって?なんかムカつくからだ。

「別にそのだな……驚いただけであって、悪くはなかった……」
「はあ?」

何言い出してんだか。そもそも、だ。相手が俺だというだけでお前には、

「ちゃんと言い直せ。悪くなかったじゃなくて、最高だっただろ?」

一瞬のような、1分のような、1時間のような。時間感覚は曖昧だったが、それでもほんの少し震えたコイツの唇が少しでも覚えておこうと必死だったのは伝わった。
あんなに喧嘩を売ってきたSRNのジュピターはどこへ行ったんだ?なんて、思ってしまう。別に戻って欲しい訳じゃないが。
人間が『恋は人を変える』なんて言うのは、こういうことを言うんだろうか。

「……そうだよ。十分知ってるくせに言わせるな」

顔は逸した癖に、肩に置いた手はまだ離れていかない。
……それなら、まあ、良いだろう。この事実を言わせるまでが俺の中でキス、だ。勿論今決めた。







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