白黒的絡繰機譚

掌の上

ジャイロ+クリスタル ジュピター不在

私、クリスタルマンが今日初めて見かけた彼は、随分と浮かない顔をしておりました。
そもそも、彼は兎に角仕事熱心で、共用の場に来るのはとても珍しいのです。

「おや、ジャイロ。浮かない顔ですね」

ジャイロは私と同じ、DWNのロボットです。製作者の尽きぬ野望により増えていく仲間たちの中でも、彼と私は仲の良い方だと思っております。
あちらは否定するでしょうがね。そういう質なので。

「ん、ああ……クリスタルか」
「何かお悩みですか?私で宜しければ、ご相談に乗りますが……」

そう声をかけると、何時もとは違い随分と大人しく頷きました。珍しいこともあるものですね。彼は良くも悪くも素直ではないので。
私は磨いていた水晶を脇に置いて、彼を手招きして正面に座らせました。

「さて、どうしました?」
「……あー、告白された」

どこか上の空で、けれども平常通りの声で告げられたそれは、私の心を大いに刺激しました。
彼の声は動揺していませんが、私には分かるのです。彼は酷く、動揺しているのだと。
平時の彼なら、こんなことをこんな風に人に話したりなぞ絶対にしないのですから。

「それはそれは。おめでとうございます。そのお方との今後を、占って差し上げましょうか?」

そう提案すると、彼は顔を顰めました。

「……お前は、男同士の恋占いもするのか」

おや、まさか告白された相手が男性とは……面白いこともあったものですね。けれど、よくよく考えるとジャイロは同性の方が受けは良いかもしれません。
しかし、一体それは誰なのでしょうか?

「出来ますし、した事もありますよ。まあ、それはさておき、誰ですか?そのお方は」

そう問うと、彼は溜息を吐いてから言いました。

「ジュピター」

ジュピター……ああ、いつの間にか空中庭園に現れるようになったSRNの一体。あまりジャイロには相手にされていないようでしたが。なにせ彼はその背のジェットエンジンが自慢のようでしたからね。ジャイロからすれば、神経が逆なでされることこの上ない。
でも私が見る限りでは、

「結構お似合いじゃないですか?」

何だかんだで貴方がたは上手く付き合えると思うんですよね。きっと相性占いも良い結果が出ると思いますよ。
そう付け加えると、ジャイロは苦々しいと言うか、驚いたような顔で私を見つめます。
だって貴方、まだ彼に実力行使をしていないじゃないですか。嫌いなものを見せびらかして、言葉でもチクチクとやられているというのに。

「本気か……?」
「ええ。私、嘘は言いませんよ」
「……」

なんですか、その『嘘吐け』みたいな視線は。心外ですね。

「で、お返事はされたのですか?」
「ん?あー……しては……ない、か?」

なんとも微妙な返事ですね……。
貴方の性格と今の状況から考えて、どうせ適当にあしらって逃げてきたのでしょう。
私はジュピターとやらが可哀想になってきましたよ。恐らく、相当な勇気を持って口に出したのであろうことは想像に難くない。
相手はこの、ジャイロなのですから。

「ちゃんとして差し上げるべきですよ。それが礼儀というものです」
「礼儀と言われてもな。大体、俺はアイツの事を特に何とも思ってないんだが……ってなんだその目は」

先ほど貴方が私に向けた目と同じですよ。
何とも思っていない?それこそ嘘でしょうに。
もしそれが疑いようのない事実だとしたら、私は相当観察力が低いことになりますよ。占いを今の生業としている身としては、致命的じゃないですか。

「無自覚でしたら、本当にジュピターがお可哀想だ……」

私は溜息を吐きました。

「む……とりあえず、俺はどうするべきなんだ?」

貴方は本当に何も分かっていらっしゃらない。貴方がたの為に、少し、頑張って差し上げますかね。
仲間ですし、友人ですし……面白そうですし。

「そうですね……。とりあえず、お返事は保留にするとお伝えした方が良いでしょう。間違っても何とも思ってない、などと言っては駄目ですよ?」
「分かったよ……」

心底面倒くさそうに立ち上がると、ジャイロは去っていってしまいました。向かう先は勿論職場の空中庭園でしょう。
一言くらいお礼でも言って欲しいところですが……、まあ良いでしょう。あのジャイロが人の意見を聞き入れた、それだけで凄いことなのですから。
傍らに置いていた水晶玉を手に取って、眺める。そこにはまだ何も映ることはなく、映すこともなく。これはきっと、結末を知らないほうがいい。
当事者ではない私ですが、貴方がたがこれからどうなるのか……楽しく見守らせていただきましょうか。







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