白黒的絡繰機譚

理由は単純

そんなことは、絶対に認めない。理由?そんなものあるか。関係ない。
俺はただ、気に入らないだけなんだ。目障りなだけなんだ。
……そうだ、それだけなんだ。
気に入らない、目障り。それだけなんだ(と自分に言い聞かせていることに俺は気がつかない。致命的なエラー。表示はない)

「……気に入らない、目障りだと言われてもな。俺にどうしろと言うんだ」

低性能なプロペラに、安っぽそうな装甲と軽量化がいき過ぎてそうなボディ。
そして……ああ、そうやってどうでも良いことのように返事を返すところも目障りだ。

「とりあえず目障りだ。消えろ」

俺の要求はそれだけでしかない。
とてもシンプルで分かりやすいだろう?
だから、是非そうしてくれ。そうしろ。そうすべきだ。

「消えろ、ね……。俺は元から、お前と関わり合いのない生活してるのだが」
「……それでも、目障りなんだよ」

ぐ、と言葉に一瞬詰まったのは何故か?
俺が知るか、そんなこと。
見えないエラーが積み重なる。見えないから俺には分からない。エラー、遅延、分岐の省略。全てがイラつきに変換されている。それだけだ。

「何だそれ。大体、わざわざこんな風に俺に突っかかるのは何故だ?」

ああ、コイツと話すとイライラする。エンジンの回転数が上がるようで、変な高揚感とイライラに満たされていく。
特に今日は、昨日よりも格段にイライラする。イライラするんだ。

「……」

――本当はきっと、理由なんて分かってる。表示されていないわけがない。プログラムはエラーを吐き出す。
でも認めるわけにはいかない。
この俺が!そんなはずある訳がない!
あってたまるか!そんなことは絶対にあり得ないんだ!

「……おい、聞いているのか」

聞いているとも。聞きたくもないが。可聴範囲は変化していない。
でも、俺に答える義務はない。ない筈だ。
あるのは目障りなお前が俺の前から消える義務のみ、そうだろう?
俺の平穏と正常回転数の為に、頼むから消えてくれよジャイロマン!!

「……聞いてるよ」
「なら答えろ」

がちゃりと安っぽい音がする。お前が俺との距離を詰めてくる。
……近づくな、目障りだ!

「……何で、答える必要性がある」
「あるに決まってるだろう?迷惑被ってるのは俺の方なんだからな」

お前が思っている以上に俺の方が迷惑被っているに決まってる。
お前の存在全てが、俺の為には邪魔なんだ。

「……」
「黙ってないで、言え」

また一歩、視界に占めるお前が増えていく。
ああ、目障りだ。目障りすぎて。

「……」
「早く言え。黙るな」

また一歩。今までにない程の至近距離。
ヘルメットとマスクでお互いに見えるのは目元だけなのに。

(それなのに、おれは)

……だから、何だ。なんだって言うんだ。何でもないだろう?それなのにどうして俺は、こんなに――。




『ジュピター、お前、あのプロペラ野郎……ジャイロマンだっけ?にどうしてあんなに突っかかってんだ?』

そう呟いたのはどいつだったか。マーキュリー?サターン?どちらもだったかもしれない。

『あ?ムカつくんだよ。目障りじゃねーか』
『そうか?そう思ってんのお前だけだぞ』
『……そうなのか?』

聞き返さなければよかった。今は、思う。

『そうだな。つか本当に目障りって理由だけか?』
『それ以外にどう思えってんだよ』
『お前見てるとさ、お前がアイツに――』




……ああ!チクショウめ!
あいつ等の言う通りだよ、認めてやる、認めてやるよ!

「お前の事が、好きだからだよ!!」







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