約束なんて、本当はきっと。








両手を広げて待っていて








約束して、今日で一週間が経った。
つまり、あの人が最後にキキョウにやって来た日から一週間が経ったという事になる。
俺の訴えを聞き入れてくれたのか、それとも俺から会いに行くと言った事が効いたのか、本当に一週間来なかった。……その代わりに、電話の回数が増えたけれど。流石に辟易していた俺も、それに苦言を言うつもりはない。

『会いたいよ。正直、限界』

それは、口癖のように毎度の電話で聞ける言葉。俺はそれに溜息とも苦笑ともつかない何かを吐き出す。

『でも……やっぱりハヤトの言う通り、周りに迷惑をかけるのは良くないよね。まあ、それに……』

そこまで言うと、少し間を置いて、笑った。
この人は、そういう含みがある言動をする事が多い。はっきり全部言えば良いのに、とは思うけれど、別に嫌な訳じゃない……けれど。

『……また、電話するよ』

話せる話題を全部話して、もうどうしようもなくなった時、何時も寂しそうな声でそう告げるその瞬間、俺はどうにも落ち着かない。そんな声を出されると、まるで俺が悪い事をしてしまったような錯覚に陥る。いや、実際しているのかもしれない。見れる筈の無い表情が分かるようで、胸がざわついて、どうしようもなくなってしまう。
俺だって、本当のところは切りたい訳じゃない。でも、話す事の無い電話はどうしようもないし、お互い何時でも暇という訳でもない。

「はい。……また、マツバさん」

だから、仕方ない。それでもやはり話したいと思うし、顔が見たいとも思う。
……会いたいと思う。本当に。
どちらかというと俺の方がずっと直情的だと思っていたけれど、実際のところは違った。あの人はそう思ったら、行動せずにはいられないんだ。

「……でもだからって、ジムリーダーとしての務めは別だよな?なぁ、ピジョット」

俺の問いかけにピジョットはこくりと頷く。父さんとずっと一緒にジムを守ってきたピジョットは、きっと俺よりずっとジムリーダーというものを分かっているのだろう。

「そりゃあさ……嬉しくない訳じゃないけど。お前たちも構ってくれるしさ。別に凄く遠くに住んでる訳じゃないし、来るのは自由だと思う」

ピジョットの羽毛に顔を埋めて、溜息。瞼を閉じると、あの人の顔が浮かんだ。

「でも、やっぱり……申し訳ないもんなぁ。俺から会いに行くことも、電話をかける事も殆どないし」

まるで先回りをするように、俺に気を使うように。それはきっと、優しさだと思う。
でも、俺はそれに平気ではいられない。いてはいけない。

「……」

一週間前に言った事を、あの人は多分待ち望んでる。
それに言っていた通り、限界なんだ……お互いに
だから、

「……よし」

立ち上がった俺に、ピジョットは待ってましたと言わんばかりに羽を広げ、促す。その背に乗って、一言だけ。

「ピジョット、そらをとぶ」

どこへ、とは言わなくても分かってくれる。だってあの紅葉の似合う街しかありえないんだから。
どうせ明日は休日。……だから、今から行ったっておかしくは、ない。
なんてそんな俺の考えはきっと……いや、絶対にあの人の瞼の裏に、俺がこうやって飛んでくる姿が、はっきりと見えているに決まってる。もしそうじゃなくたって、大丈夫。
『君の事なら、視えなくたって分かるんだ』――冗談か本気かつかない何時もの声で言っていたのだから。
だから、電話で知らせるなんて事はしない。そんなことしなくても、きっと待っていてくれるから。




「待ってたよ、ハヤト!」

ほら、思った通り。待たせて、ごめんなさい。

「……会いたかった、です」

小さな声は、まだあの人には届かない。
この距離がもどかしくて飛び込んだら、受け止めてくれますか?