白黒的絡繰機譚

会いに行くから会いに来て

「……」
「やあ」
「また、ですか」

この場合の『また』が指すのは『ジムを予告も無く留守にしている』事。確かにね、常習犯なことは認めるよ。
でも、

「ちゃんと昨日のうちからイタコさん達には宣言してきたから大丈夫だよ」
「そういう事じゃなくて!」
「ああ、先に連絡をしなかった事は悪かったと思っているよ」
「そうじゃない!」

出会ったばかりのころと比べると、砕けてきた口調の君がいる。まだまだ固いなぁ、とは思うけれど、これ位が丁度良いのかも、とも思える。言いかえれば、君なら何でも愛おしいよね、って事になるんだけど

「……じゃあ何かな」

怒らせる事は本意じゃない。多分言っても、君は訝しげにするだろうけども。

「やっぱり、良くないと思うんです。お互いジムを任されてる身として、こういう私情で月に何度も留守にするのは」
「これでも抑えてる方なんだけどなぁ……」

本当は毎日……いや、片時も離れたくない。君がいないと、僕は萎れてしまうよ? これはさっきのよりも、訝しげな、いやそれじゃ済まない顔をされるかな。

「休日があるでしょう? それに電話とか、メールとか、話したり連絡を取る手段はいくらでもあるじゃないですか」
「それはそうなんだけど……」

確かに休日は一緒にいる。でもジムリーダーなんて自営業みたいなところあるから、平日と休日の区別なんてあんまりないような。
勿論電話番号はとうの昔に登録済みだし、君が忙しくない時間も知ってる。連絡なんて、会話なんて何時でも出来る。
……君はそれで、それだけで本当に良いと思ってるの? 僕はそうじゃないんだ。

「だったら……」
「ハヤト」

機械と電波を使わないと聞けない声だけじゃ嫌だ。見えない姿じゃ嫌だ。
だからこうやって抱きしめて、確認したくなる。
力を込めて、密着して、言葉だけじゃどうしようもないものを受け止めて欲しいんだ。

「メールじゃ満足できない。電話だけじゃ伝えきれない。休みだけなんて少なすぎる。だから」

こうやって、会いに来る。でも、メールでも電話でも伝えきれないものは、目の前でも腕の中でもうまく言葉にならない。
とにかく、分かって。お願い、お願いだよ。

「……でもやっぱり、ジムをほおり出してくるのはいただけないです」

少しの間を置いて、君はそんな事を言った。

「……うん」
「だから、こういう事は今後なしにしてください」
「それは……僕に死ねって言うのと同義だよ」

君がいないと、駄目になるよ。いるから駄目になるようになった、とも言えるけれど。

「流石にそれは大袈裟じゃないですか。……でも、ちゃんとしてくれたら、俺から会いに行くかも、しれないですけど」
「本当?」
「俺がマツバさ……マツバに、嘘を吐く訳がないじゃないかっ」

僕のマフラーに押し付ける様に顔を埋める。
引っ張られた所為で少しだけ苦しいけど、これくらい何ともない。幸せだから、ね!
――さあ、そんな君が紅葉と共に飛んでくるのは、一体何日後なんだろう?
楽しみで、仕方がないよ。







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