白黒的絡繰機譚

御心のままに

夜、自室で昼間見きれなかった書類に目を通していた。
大した量ではなかったので、思ったより早く作業は終わり、ふと机から逸らした視界にソレが入ってきた。
全く部屋になじまない、色とりどりの花々。それはここ半月ほどの恒例行事の産物だった
椅子から立ち上がり、花の飾られたサイドボードに近づく。
花瓶に活けられたそれはまだ、受け取った時からあまり変わっておらず、この部屋の中で異彩を放ち続けている。

「やっぱり、俺に花なんて似合わないな」

自分は見た目からも分かる通り、破壊する側の人間だ。
こんな花々が似合う筈もない。

「――全くだな」

突然響いた声に振り向くと、その人はいた。

「3世様……」

マルハーゲ帝国皇帝・ツル・ツルリーナ3世。どうして、なぜ、こんな場所に、俺の前に?
俺の動揺を気にも留めず、3世様は俺の身体に半分隠れた花瓶に目を留めた。

「……この花はどうした」
「あ、それは……菊ノ丞が『飾っておけ』と言って押し付け……渡してきたものです」

半歩下がって、花瓶が自分の体に隠れてしまわないようにしたが、3世様は花瓶を一瞥すると、

「……フン」

と、興味なさそうに鼻で笑い、次の瞬間にはその花瓶にあふれた花々を一瞬で消してしまった。

「あ……!」
「菊ノ丞が『飾れ』と言ったから飾った……。そうだな?」
「……はい」
「気に入らんな……」
「え……?」
「キサマは私の部下、私のものだ。そうだろう?」

3世様が一歩近づく。
びしり、と空気が冷える。冷気が身体を駆け上る。

「は、い」
「ならば私以外の言葉に従う必要はない」

3世様がまた一歩、近づく。
狭い視界からでもわかる威圧感が恐ろしくて、動けない。

「花なんぞに気を取られるな。私を見ろ」

3世様が俺の顎を持ち上げると同時に、ヘルメットが少しずれて目と目がしっかりと合う。
帝王の視線は、強い。思わず逸らしたくなるが、それすらも叶わない。

「私だけを見ておけ、コンバット・ブルース」

面と向かって言われたその強い言葉に、俺は抗うすべをもたない。

「……はい、3世様」

俺の返事に満足したのか、3世様は軽く笑ってから来た時と同じように唐突に消えた。
――力あるあの目で見られたら、あの声で言われてしまったら。帝王、貴方の命令に従わずにいられるだろうか?
勿論、貴方は分かっていてやったのでしょうが、俺にそんな価値があるのですか?







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