急に肩に何かが触れ、思わず振り払う
無口な雄弁者
「おや……ご機嫌斜めのようだね」
「……フン」
ご機嫌斜め
僕の肩にいきなり触れてきた張本人は、自分がその原因だとも気付かない
……こんな奴が一番優秀だなんてボクは認めない
「でもその不機嫌を隠そうともしない瞳……それもまた魅力的だ」
……訳が分からない
ボクを貶しているのか?コイツは……それとも……
……止めた
考えるだけ、時間の無駄
「……残念。もっとワタシのことを考えて欲しいのに……」
「…………!!」
今、コイツはなんて言った?
もしかしてボクの考えていることが分かったというのか……!?
「君が思っている以上に、その瞳は雄弁……勿論、そこから君の意志を正確に読み取ることはワタシだけが出来ることだけどね」
自信満々にそう語る
……気に入らない
ボクの意思を読み取る?傲慢にもほどがある
一体何が目的だ?優秀な自分を披露してボクを愚弄しているのか?
「まさか……何故ワタシが君を愚弄しなくちゃならない?ワタシは君の事を愛おしいと思っているのに……」
「愛おしい……?」
思わず、聞き返してしまった
時間の無駄に他ならないのに
「そう、愛おしい。ワタシはこの世界中の誰よりも……そして何よりもタイムマン、君を愛おしく思っているよ……」
その言葉とともに、肩を掴まれ、身体を反転させられ、額に熱い感触
状況を判断する時間さえ惜しい
……早く、離れなければ
「おや、どこへ行くつもりだい?どこへも行かせはしないよ。折角捕まえたのだから……」
両肩は掴まれたまま、動けない
コンマ1秒でも早く、離れなければいけないのに
予定されていた時間が、どんどんズレていく
「……放せ」
「それはできない」
「……もう一度だけ、言う。放せ」
「どうしてそんなに嫌がる態度をとるんだい?……君の瞳はそれほど嫌がってもいないのに……」
「…………!!」
嘘だ
コイツは嘘を吐いている
ボクをからかっているんだ
絶対、そうだ
「ワタシは君をからかって遊ぶほど愚かではないよ……」
嘘だ
嘘だ
嘘だ!!
「そこまで疑われるとは心外だね……でも、」
顔が近づく
離れなければ
でも、何故か、動くことができない
何故なのかを理解するよりも早く、唇に熱い感触
「ワタシはそんな君がとても愛おしいよ」
その言葉を残して、アイツは去っていった
……ああ、やはり気に入らない
アイツの存在も、熱い感触の消えない額と唇も全てが
>>甘いのなんて、嫌い