白黒的絡繰機譚

甘いのなんて、嫌い

「はい、これあげる」

……要らないのに、なんて言う暇もなく。
掌の上をじっと見る。そこにあるのは透明なフィルムに包まれた一般的イメージと符合する飴玉。

「人の好意は素直に受け取っとくものよ。タイムマン」

という言葉と共に押し付けられた、要らないモノ。製造順が先だというだけで、何故か僕を気にかけるような行動を取る、お節介からのモノ。
要らないけれど、捨てるわけにもいかない。……絶対に、怒る。
そんな事は時間の無駄。だから捨てはしない、けれど……。

「食べないのかい?」
「!!!」

気が付かなかった。
僕としたことが。コイツの前で、無防備になるなんて。
今までそんな事、なかった筈なのに。どうして。

「おや、そんなに身構えなくても良いじゃないか」
「……近づくな」
「そこまで警戒されると、流石に温厚なワタシといえども悲しくなるよ……」

肩をすくめ、大袈裟に溜息を吐きながらそう言う。
けれども、自業自得だ。この前の事、僕は忘れていない。
……早く、忘れたいのに。

「……で、食べないのかい、その飴。ロールから貰ったのだろう?」
「……甘いものは、好きじゃない」

僕がそう言うと、アイツは一瞬驚いたような顔をした。

「ああ、済まない。そうか……君は甘いものを好まないのか。覚えておかないといけないね」

どこか嬉しそうにそう言う様子が、気に食わない。
僕の好みがオマエに関係あるのか? ないだろう?

「嫌いならば……その飴。ワタシにくれないかい?」

……コイツにやるのは癪だが、それが一番良い方法には違いない。
僕はわざわざ食べたくないものを食べなくとも良いし、怒られることもない。押し付けた訳ではなく、欲しい奴にあげただけ。何も問題はない。

「……やる」

飴を載せた掌を差し出す。

「ありがとう」

僕の掌から飴を取ると、そのまま包みを開けて口へと放り込んだ。
……何気ない、普通の動作なのに何故か目が離せなかった。どうして?

「……ん、何だい? そんなに熱っぽく見つめて」
「! 見てなんかいない……!」

確かに、見ていたのは事実だ。
けれども、そんな風になんか見ていない。絶対に。一体コイツは僕を何だと思っているんだ……!

「嘘は好ましくないね……君の口はどうも、お仕置きが必要なようだね」
「!!」

ニヤリと笑いながら言われたその言葉に、身を引くが、間に合わない。
この前と同じく、唇に熱い感触。
……そしてその隙間から、甘さが流れ込んでくる。

「君の口はもっとこの飴の様な甘さを覚えた方が良いね。まあ、ワタシはどんな君でも愛おしいけれど」

腹立たしい程余裕綽々に、認めたくないほど優しくそう言うアイツに、僕は、

「……よ、余計な、お世話だ」

悔しいけれど、そう言うのが精一杯だった。
ああ、口の中が、甘ったるい。
……甘いのなんて、嫌い、大嫌い。
きっと食べるたびに、このことを思い出してしまうから。







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