白黒的絡繰機譚

チャージの話

ワシの番だな。グラビティー、ウェーブはほおっておけ。よくあることだろうが。
そもそも……ワシは彼氏なぞおらんのだがな?まあ、それで終われる筈もないのは承知しとるぞ。だから……恐らく彼氏になりたいのであろう男の話をしようか。
どこから話したものか……、先ず、ワシの家のある町は昔は老人が多くてな。老人が多いということは、亡くなったりそうでなくとも介護や同居などの話が毎日のようにされとったもんだ。ここ数年はそれと再開発の話が合わさって、どんどん古い家が取り潰されて新しい奴らの家が出来ていった。うちの爺さんが売りに出しとった元道場の土地もそれでやっと片付いて清々しとった頃だったの、反対隣に建った家の家族が挨拶に来た。うん、そこの息子の話だ。
第一印象?小さいなと……。実際年下だったし、実際平均より小さかった。その時は、それだけだな。
変化があったのは、隣が引っ越してきて半月くらい経ってからだったか。朝、自主練しとったら上から声をかけられた。

「なあ、それ毎日やってるけど、効果あるの?」

一瞬騒音のクレームとかかと思ったから、ちょっと拍子抜けしたな。近所でも爺婆がよくそういう話しとったし。
……ああ、そうか今はやっとらんからな。さっきうちの爺さんが「元道場の土地を売った」的なことを言ったろう?昔は爺さんは空手の道場持っとって。少子化で厳しくなってきた上に、腰もやったし病気も見つかってな、畳んだんだわ。ワシもだから小さい頃はみっちりやっとって。寮入るまでは毎日庭で一人で一通りするのが習慣でな。それを自分の部屋から見たんだろうな。
効果ってなんぞ、と思いつつ「興味あるなら一緒にやるか?」って叫んだら引っ込んだ。まあそんなもんよなと思ってその朝は終わりだな。
動いたのは次の日だった。庭に出た瞬間視線を感じてな、だが見上げた時にはカーテンがしまっておって。しばらくすると隣の玄関から転がり出てきた。

「やるのか?」
「やる」

んで、その日から一緒にやることにした。とは言っても、ワシは素人だからの。爺さん呼んで、最初の頃は任せとったよ。爺さんも無駄に朝早いから暇しとったし。道場畳んでからちょっと萎れとったけど、少し元気になって良かったと思ったよ。
隣の親御さんは凄い恐縮しとってな、なんでも色々習い事させようとしたんだが嫌がるし続かんかったと。でも爺さんが道場紹介する言ったら凄い嫌がってな、本人が。結局そのままワシが高校上がるまでそのまま二人でやっとった。なかなか筋はあったぞ?ただ、冬はかなりサボっとった。寒いのが苦手なんだと。

「あと何年くらいやればいいと思う?」

ある日そう聞かれた。そんなの知らんと答えた。爺さんだって道場まで持った癖して自分なぞまだまだだとか言っとったし、決まった年月でどうこうと言うものでもないだろう。

「……姉ちゃんみたいに大きくなりたいんだけど」

あー、最初の時のはそういうことかと合点がいった。まあ男だし、気にするわな。

「大きくなりたいんか?別にまだ今から成長期だろう」
「……でも、女って背の高いの好きだろ」
「マセとるなあ。なんだ、好きな子にそう言われたか」
「……。……姉ちゃんはどう」
「同じくらいで良いがなあ」
「ふーん……」

この時は、頑張れ少年とか他人事だった筈だな。
ん?と思い始めたのは、寮入って会う頻度が下がってからだの。ちょっと会わんうちに伸びたな、と言ったら

「あと5センチまできたからな」

……だと。だろ、多分これそうだろ。まさかワシになぁ。本人は気にしとったが、別に今は小さくないし、運動も勉強もできるのに、よりによってワシときた。
さて、次帰った時はどうなっとるんだろうな。まだか、遂に追い越しとるのか、少し楽しみだ。







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