R必要提案
「指輪つけて」彼が唐突に言った。
「それくらい自分で……」
「違う。アンタが」
「生憎、俺は装飾品の類を持ってませんので。……知ってますよね?」
「知ってる」
「なら、何故」
今日の仕事は順調だった。彼の機嫌も良かったし、スタッフも皆熟練で滞り無く終わった。それなのに、家へと帰ってきた彼の表情はあまりよくない。はっきり言ってしまえば、拗ねている。そんな表情だ。
彼はオンとオフを割りとしっかり分けているので、外でこういう表情はしない。俺の前でぐらいだ。
「……」
彼は何も言わない。これは相当機嫌が斜めなのだろう。明日の仕事への準備の為触っていたタブレットを置いて、彼の方へ体ごと向き直る。これで少し改善したはずだ。
「ライアン」
「……」
「理由を」
「……」
それでもまだ、彼の口から言葉を引き出せない。今日はなかなか手強い日らしい。それだけの事が起こったような仕事ではなかったはずなのだが。でも彼は俺以上に周りのことを把握しているので、彼が何か会ったと思っているのなら、あったのだ。何かが。
「ライアン、言ってくれなければ俺にはわからない」
「……」
「ライアン」
「……指輪」
彼がようやく、低い声を出す。何かを隠すためか、俺から顔を背けている。
「指輪つけてりゃ」
「はい」
「俺が『秘書さんかっこいいけど、恋人とかいないんです?』とか、言われない」
「……ああ」
なんとなく、言われたシチュエーションが想像できる。
多分、本当は彼も一緒に指輪が付けたいのだろう。でも、プライベートならともかく、ビジネスの場でそれは出来ない。彼が何を身にまとうかということも、意味がある。
「ライアン、貴方ってそういうの、気にするんですね」
重力王子は、もっと傲慢かと思っていた。
「わりとする」
「意外でした」
「……それに」
「それに?」
背けられていたヘイゼルがこちらを見る。今日はなんだか、子供のようだ。
「いないのか、って聞かれるのはあれだけど、いることに残念がる奴は、見たい」
「……」
少し訂正だ。寂しがる子供かと思っていたら、とんだ演技派だ。ヘイゼルの奥は悪戯に輝いている。
「悪趣味ですね」
「知ってるー」
「……これだから」
「ってことで、明日は仕事前に買いに行こうぜ。何がいい?」
「貴方にお任せします」
きっと彼は選ぶはずだ。いつでも着用できて、どこか彼を思い起こすような、そんな指輪を。