白黒的絡繰機譚

薬なんて包帯なんて要らない

「ロキ」

何故か悲痛な主の声がした。
どうしてだろう。まだ私がいるから、貴方に攻撃は届かない。届いてはいけない。

――出会ったのは、水属性のモンスター。しかも集団。
火属性が主力の私達では分が悪く、唯一の木属性であるアースゴーレム女史も、一人では押し負けてしまった。
火でも木でもない私が、最後まで立って、応戦していた。なんとか敵の集団は地に伏している。だが。

「いい、もう。大丈夫だ」

何がだろう。まだ私の目の前のモンスターは動いている。
安心してはいけない。瀕死?死んでなければ全て同じだ。少し時間が経ったら回復して、また牙をむくかもしれない。

「大丈夫だ。もう、終わった。倒しただろ」

違う。倒れているだけだ。生きている。動ける。死んでいない。
まだ、貴方に、火野さんに、危害を加える可能性がある。
今、私しか立っていないのだから、私がやらなくては。私が、貴方の為に、この、神の力を。

「ロキ」

近づかないでください。危ないんですよ。
ああ、でも貴方の腕が酷く温かい。白いシャツが汚れますよ。この前もぶつぶつ言いながら洗濯していたじゃないですか。
なのに、どうして。

「大丈夫だ」

本当に、そうなら、いいんです、が。
ふつり、私の中で何かが切れる。膝がいう事を聞かない。身体が重い。意識が――。



――目を開けると、そこにはいつも通りの火野さんがいた。

「やっと気がついたか。心配かけやがって」
「……火野さん?」

大丈夫なんですか、と聞くと、険しい顔をされた。どうしてだろう。

「馬鹿野郎」

険しい顔のままそれだけ言って、彼は私の頭を地面へと下ろした。自身の膝の上に、載せてくれていたらしい。
まだ少しくらりとする頭のまま、起き上がる。周りには、皆がいた。誰もが心配そうに私を見ている。どうしてだろう。

「心配、したんだぞぉ!」
「……何時までも起きないから、火野さんが心配していた」

ああ、そういう事ですか。なんとなく状況を察する。ギガンテスが乱暴に私の頭を撫でた。もう彼らの怪我はすっかりいいようで、私だけが最後まで回復しなかったらしい。それはとても、悪い事をしたのかもしれない。

「……我が主」
「なんだよ」

身体ごと、彼の方を見る。まだ、険しい表情を崩してはいない。

「申し訳ございませんでした。貴方の指示を、私は無視した」
「……」
「火野さん」

ふう、と溜息を彼が吐いた。

「もう、あそこまですんなよ。……心臓に悪い」
「私は神ですから、死にはしませんよ」
「そう言う意味じゃ……ああもう、何でもいいか。ロキ、早速で悪いけどメシ作るから何時もの出せ」
「はい、仰せのままに、我が主」

どうして、彼は私の心配をそこまでしたのか。
どうして、私は彼をそこまでして守ったのか。
それは、ただのモンスターとマスターだけと言い切れるのか。
……きっと、深く考えてはいけないのだと、私は思った。