寝ている間に私達
彼――火野さんの眠りは深い。ホノりんを抱きしめ、ティランを身体に載せて眠る姿は、呼吸以外にピクリとも動かない。
私達にとっては、ある意味好都合なのかもしれない。
別に彼が嫌いだという事はなく、それでも起きている時には出来ない事・話せない事があるのだから。
「……ロキ」
珍しい者の声が聞こえた。
無口な炎の精霊。彼の声は、日に何度も聞けるものではない。特に、私の名を呼ぶ事など、もしかして初めてなのではないだろうか。
「何か御用ですか?」
もたれ掛かる木を挟んで、声をかける。
ギガンテスとアースゴーレム女史は、主と同じく夢の中だ。起きているのは、私達だけ。
「いや……少し、聞きたい事が」
「私に?」
「ああ……」
そこで彼は口を噤む。自分から話しかけてきたというのに。私が溜息を吐くと、彼の髪の毛が木の幹に擦れた音がした。
「……主は、帰ってしまうのだろう」
「火野さんが? ああ、そうですね。彼の目的はそれですから」
異世界からの訪問者である彼との旅の目的は、ヴィーナスに会って元の世界に帰る事だ。
それを、今更。
「貴方、それが嫌だとでも?」
鼻で笑えば、身動ぎしたような音がする。
「……そう、かもしれない。私の主は、あの人だけだ」
「今は、ですよ」
卵から生まれ出る私達は、何度も繰り返して新たな主を見つける。
他のモンスター達ならともかく、私のような神や、彼のような精霊ならば、何度も経験している筈だ。それなのに。
「……分かっている。でも、私は、今度ばかりは……」
「……」
『でも、帰らなくても彼はいつか死ぬんですよ』
そう言いたくても、言えなかった。それを口にしたら、私はいつも通りの仮面をかぶっていられなくなってしまう様な気がしたから。
狡猾の仮面を被っていなければ、それはもうロキという神ではないのだ。私は神でいなくてはいけない。
「やれやれ……普段無口な人が喋ると、碌な事を言わないですね」
「すまない……」
「別にいいですよ。私は」
彼と違って、私は誰にも言わない。トリックスターには似合わない。
『私も貴方と同じ事を、思ってしまっている』だなんて、絶対に。私は神。そう、何度も自分に言い聞かせる。私は神なのだから。
「……お前も、本当は」
「まさか。シャイターン、貴方疲れているんじゃないですか」
「……」
――ああ、神なんて碌なものじゃない。
無から有が出せても、言葉一つ口に出せない。夜ですら、貴方が寝ている今ですら。
「シャイターン」
「……」
「貴方、それでも我らの主と、旅をしますか?」
「勿論だ」
「私もですよ」
それだけは、胸を張って言えるのに。