苺の中には
「……どーすんだよ、これ」火野は積み上げられた赤い果実の山に溜息を吐いた。
その向こうでは、恐らく自分のパーティモンスター達がキラキラと輝いた眼で自分を見つめているに違いない。
「言っとくけど、俺はお菓子なんて作った事ないぞ」
火野の料理スキルは高い。これは自他ともに認めるところではある。だが、それは男の一人暮らし生活の中で培われたものであるため、お菓子作りなんかは専門外なのだ。何が悲しくて男が一人で自分の為にケーキなぞ焼かなければならんのか。そんな気分になった試しは一度だってない。食べたくなったら買うだけだ。
だが、この大量の苺を採取してきた面々――ロキ以外のモンスター達――は、恐らく見つけた瞬間に思ったのだろう。
「火野さんならきっと、これで美味しいものを作ってくれる」と。
「仕方ねぇなぁ……おいロキ」
「何でしょう、火野さん」
「いつもの出せ」
「仰せのままに。何か指定はありますか?」
「生クリームと砂糖必須。あとはまあ……何とかなんだろ」
「承知しました」
ぱちん、とロキが指を鳴らせば、いつも通り調理に必要なものがどこからか出現する。ちゃんと指定した生クリームと砂糖もあった。
それらを確認し、頭の中である程度の手順を整え、後ろを振り向く。
「ちょっと待っとけ。……すぐ作ってやるから」
ぱぁ、と全員の顔が明るくなる。……これだから、断れないのだと火野は流石に自覚していた。
「流石ですねぇ、火野さん」
わいわいと火野の作った菓子――生クリームたっぷりの苺クレープを食べるパーティは、酷く幸せそうだ。
火野自身はと言うと、それを背に、まだ残る苺を鍋で煮ていた。所謂イチゴジャムを作っている。
「褒めてもこれ以上なんも出ねーよ。……あ、これ入れる容器がねぇな」
「用意して差し上げますよ」
「お前ってホント便利だな。てか、ロキ」
横に浮かぶロキを方を見る。
「お前、食べないのか?」
大量に焼き上げたクレープ。シャイターンとギガンテスに泡立てさせた生クリーム。牛乳もあったので、苺セーキまで作ってやった。
それらに、何故かロキだけ手を付けていない。
「……まあ、ちょっと」
「は?いや、苺が嫌いってんなら別にいいんだけどよ」
「そうではありませんが……まあ、火野さんが気にする事ではありませんよ」
ふうん、と納得してなさそうな声をあげて、火野の視線は鍋へと戻る。
その横顔を少しだけ見つめて、ロキは一人、彼らの元を離れる。
「――私らしくもない」
そんな事を気にするだなんて。
気にせず、彼の料理を食べてしまえばいいのに。けれども、それがまるでこの想いの何かを暗示しているようで。
「ああ、狡知の神はどこへいった?」
自嘲気味に笑うしかなかった。
(北欧神話では、女神フリッガが苺に幼くして死んだ子供を埋めて、天国に送り出すそうな)