赤に劣情を混ぜて
「あれ」意外そうな主の声の理由は、ロキには分かっていた。
「火野さん、だから私は神ですと」
「あ……ああ、そっか。そうだよな」
少々幼い容貌をしているためか、火野はよくロキを子供のように扱う。
今回もそうだった。
辿り着いた街で、つい買ってしまったワインのボトル。どちらかと言うと火野はビールの方が好きだが、流石に樽を買って持ち運ぶわけにもいかない。なので、持ち運べる程度に2本だけ。財布の問題も多少はあったが。
宿に戻り早速舐めはじめた矢先、耳元で声がしたのだ。「私にも分けてくださいよ」と。
「良いでしょう? 私達が稼いだお金で買ったんですから」
「そりゃそうだけど」
勿体ない気もしながらも、火野はロキのグラスにワインを注いだ。
(なんとなくムカつくが、似合うな)
ワイングラスを揺らして、一口。やや甘めのそれは、どうやら悪くはなかったらしい。
「こういうお酒がお好きで?」
「いや、あんまり。ビールとかハイボールとかの方が好きだな」
「そうですか」
「……」
いつも、ロキは人に質問するだけして、自分の情報を渡さない。
今回も例えば「私はビールよりワインですね」とでも言えば会話になるのに。
「なあ、ロキ」
「何でしょう我が主」
「お前、俺の事信用してねぇの?」
こんな事が聞けるのは、多分久しぶりのアルコールの所為だと、火野はボンヤリ思った。
「まさか。主として絶大な信頼を寄せてますよ」
「の割にはお前……俺に何にも教えてくれねぇよなぁ……」
ぐすっ、と鼻をすする。
その音に、ロキは目を見開いた。
「酔っていらっしゃるので?」
「まっさかぁ……これくらいまだ序の口よ序の口」
「その割には顔が赤いようですが」
「俺すぐ赤くなっちゃうから」
「……」
ロキが自身のグラスの中身を飲み干す。
それにつられるように、火野もグラスをあおった。口の端から一筋、赤が伝う。
「あー……」
「全くだらしがない。……拭いて差し上げましょう」
酷く赤い舌が、火野の口元をなぞった。
「悪いな、ロキ」
「……やはり酔っているじゃないですか」
とろり、とした目は、ロキの瞳の中にあるものに気がつかない。
その方が良いのかもしれない。彼はいつか、帰ってしまうのだから。
「火野さん」
「ん?」
「私は、子供ではないんですよ?」
貴方が拒まないなら、なんだってしてしまえることをお忘れなく。
酔いが醒めても、きっとそれだけは彼の心に残る筈だと、ロキは知っていた。