白黒的絡繰機譚

赤黒い

病み&ほんの少し流血有り

渇く。
渇いている。
呼吸もままならないくらいに、渇いてる。
何が?
咽喉?
眼球?
いいや、そんなもんじゃない……もっと他の部分が、渇いている。

「渇くんだ」

とても、とても。
声は何時もと同じように、かすれもせずにでるけれども。
渇きすぎて多分自分がしたはずのこの状況が分からない。

「ねえ」

目の前には、君。
その向こうは教室の床。
右手の下には細い手首。
左手の下には……白い首。

「……っ、まどう、いち」

苦しそう。
でも僕だって苦しいんだ。
多分、きみよりずっと、ね。

「君が悪いんだ……僕じゃなくて、先生だったから……」

全ての原因はそれ。
あの日から僕の渇きが止まらない。

「……ごめん」
「なんで謝るの……?」

イイヒトすぎるんじゃない?
今すぐにでも、声を上げるなり抵抗するなりしたらいいのに。
だから、何時まで経っても僕は渇いたままなんだ。
どうせ君は手に入らないのだから。

「ごめん……ごめん」

左手の下で、君の喉がそんな声を出す。
その上の顔は、涙が少しずつ溢れてきている。

「……ごめんよ」

そんな顔が見たいわけじゃない。
でも、その涙は少しだけ僕を潤してくれる。
舐めとってしまいたい欲望に駆られたけれど、僕はただ、唇を噛んだ。
唇の皮は少し破けて、そこから溢れた血が、君の顔に、落ちた。
もしも今の僕を色で表わすとしたら、きっと渇いた血みたいな、赤黒い色をしているんだろう。
そういう色がお似合いなくらい今の僕は……?

「醜いだろう?」

僕は、とても。
もう君の幸せすら望めないくらいに。
でも、それでも、

「好きなんだ」

今でも、きっとこれからも。