白黒的絡繰機譚

理不尽な日常

いや、この場に俺、要らないんじゃない……?

「盾!」

……と背後から嫌な予感のする声が聞こえて逃げようとした瞬間には俺は槍崎先生に羽交い絞めにされていた
何を言っているか分からないかもしれないけど、俺も正直何が起きたのか分かってない
分かるのは椅子に座らされた俺の目の前には、何故か鋼野と槍崎先生とムチコ先生がいるという事だけだ

「じゃあ始めるか」

何をだ一体……説明なしですかそうですか
見事にこの空き教室の出口は三人の座っている席の向こう側で、どうにも逃げ出せる雰囲気じゃない
変な汗をかきつつ、とりあえず解放してもらえるのを待つしかないらしい

「まあとりあえず、河野君は座ってて」

良く分からないけど座れと言われたので大人しく座る
椅子とかないから、所謂体育座りってやつだ
流石に教師の前で堂々と胡坐かく訳にもいかないしな……
俺が座ると、三人はおもむろに何かポーズを取り始めた
しかも三人とも微妙にポーズが違うという
……え?なにこれ?何なの?

「……よし!やるぞ」

その鋼野の声を合図に、無音、更には無表情で踊られて俺は一体どうしたら良いんだ
しかも無音無表情の癖に、すごく動きが良い
多分何かアイドルとかそんな感じの動き……だと思う
で、これは一体……何……?

「何って……河野君、決まってるじゃない」
「そうじゃぞ、決まっとろうが」

え、何これ……知らない俺がイレギュラーなの?

「この時期にやる事って言ったら、一つしかないだろ」

三人がやりきった顔かつ、どうしてそんなことも分からないんだという声で俺に言う

「忘年会の準備だ」

…………
…………忘年会……?忘年会ってアレか、なんか12月くらいによくやるアレか
なんでこの三人なんだとか、今まだ流石に早くないかとか、色々突っ込みたい事しか思い浮かばないんだけど

「何言ってんだ盾。今から準備しとかないでどうすんだよ。備えあれば憂いなしって言うだろ」
「で、どうじゃった?」

三人揃ってキラキラした視線を向けないでくれ……!
正直な話、あれは怖かった
無言かつ無表情、それでいて多分ノリノリ……一種の拷問だろ
……と思っていても流石にそれをそのまま言う事なんて出来る訳がない
鋼野だけなら言わないでもないが、槍崎先生とムチコ先生がいるんじゃな……
とりあえず、当たり障りのない感想を述べておく

「そう……。まだ改良の余地があるということね……」

目の前の三人は、真面目に俺の意見を取り入れるつもりらしい

「よし、盾の意見を取り入れ、もう一回だ!」

いや、ちょっと待ってくれ
そこで三人仲良しそうなのは良いんですけど、大変良いと思いますけど
……これ、まだ続くの?俺帰っちゃ駄目なの?ていうか今日一応部活あったのに、俺がいない事もしかして誰にも心配されてないの?




……どれだけ時間が経ったんだろう
とりあえず暗くなってきたからそれなりの時間になったんだろう
ひたっすら無言無音無表情のダンスを見させられた俺の体力精神力は限界だ
それに比べてこの三人はえらく平気そうなんだが……一体どういうことだ

「いやー、今日一日でだいぶ良くなったな!」

ソウデスカ、俺は今日一日で大分疲れたけどな
三人のやりきった感溢れる顔が眩しい

「……おっ」

鋼野の携帯が鳴った
少し会話するとすぐにそれは切られて、俺の方に笑って言った

「盾ー、お母さんがまだ帰って来てないって心配してるぞー」

身体の力が抜ける
どうして母さんとそんな親しげに話してんだよ!とか思う事はあるけど、ここで叫ぶべき言葉は一つしかない

「誰の所為だと思ってるんだよ!!」

嗚呼、俺の正常な日常はいずこ