チーズが垂れて落ちる前に
だらり、と落ちるそれは重力とお前に従っているんだろう。『遅刻したお前が悪い』
付きつけられた理由は、何時もと変わらず理不尽勝手極まりない。
それで溜息を吐く事にも正直飽きた。
それくらい繰り返して、日常になってしまったのはお前と俺、どっちの所為だ?
「だからってなぁ……。お前、これはパシリだろう只の……」
「だから何だ。どう考えてもお前ご自慢のスピードはその為にあるんだろうが」
「んな訳ないだろ……」
お前と違って俺は戦闘用ロボットだと何回も言っただろうが……。わざとなのは分かっているが、軽くへこむ。
まあ今の平和な世の中に戦闘用の需要は無いから、あまり強くも言い返せないのが悲しい。
「で、ほら」
差し出される右手。
お前と出会ってから何度目になるのか分からない意味の無い溜息を吐いて、持っていた紙袋をそこに置いた。
「……ん、ちゃんと頼んだとおりだな」
ガサガサと袋を開けて中身を確認する。
「前に間違えて酷い目にあったからな……」
別に聞き流していた訳じゃないが、慣れない買い物であんな細かく注文しないといけない様なものを頼まれてもだな……。
勿論、そんな言い訳が通じる奴じゃないんだが。
「しかしお前……、それ好きだな」
頼まれたのは、鶏肉と野菜やチーズをピタパンに挟んだサンドイッチ。
同じ名前を持つそれが好きだなんて、正直変わってると思う。
……当たり前だが、そんな事をわざわざ口に出すつもりはない。
「まあまあ」
「……俺はそのまあまあ好きなものを一体何度買いに行かされたんだよ」
実はこんな事は一回や二回ではなく。
食わなくたって問題無いロボットだってのに、一体何なんだよ。
「……で、満足か?」
俺を半ば無視して齧り付く姿に声をかける。
「ん?ああ、そうだな。まあこれで、お前がこの前珍しく俺に対して理不尽にキレた事を帳消しにしてやっても良いぞ」
理不尽に、キレた?
「……は?いや、アレはどう考えてもお前がだな……」
寧ろあそこまで我慢したのを褒めてくれってレベルだぞ……。
いや、確かに行動だけ見れば俺が加害者みたいなものかもしれないが。
「俺の所為にするのか?なら、これはお預けにしておこうか」
こちらに左手を向ける。
そこには少々中身が違う(ホント俺にはよく分からないくらい)サンドイッチ。
「……」
「ん?どうした」
「いや、くれる気があったのかと思ってな」
「失礼だな。俺が二つも食べると思うのか」
「何時もは二つ食ってんだろうが」
「まあそうなんだが。で、いるのか?いらないのか?」
「……いる」
「そうか、なら俺に感謝して食えよ」
買って来たのは俺なのだが、なんてこぼす訳も無く。
ただ横目でお前を見つつ、初めて口にする味に集中する。
「……垂れてるぞ」
そう言って笑った顔は、俺が本当はどちらに集中していたかなどお見通しで。