白黒的絡繰機譚

翼は灰色

「助けてあげようか?」

その声は、果たして。


例えば最初に作られて、設定精神年齢は一番上で、頼まれれば断る術を持ち合わせていなくて。
原因として考えられるのはそれ位だとして、だからといってこうなる理由にはならない筈だ。
そもそも、貴方がそう作ったのだから知っているでしょうに。
俺は所謂「お父さん」や「お兄ちゃん」が出来る様な性格じゃあないって事くらい。
そんなことを思っていたからか、くぐもっている筈の声は、やけにクリアに響いた。

「助けてあげようか?」
「……お前が助けてくれるとは、決して思えないがな」
「そうだね。僕だってそんな気は一切ないよ。助けるのは僕じゃない。助けてくれる人に連絡を取ってあげるよ」

眠そうな瞳と、マスクの下の口がどんな感情を秘めているのかは、俺には分からない。
……一つだけ確信が持てるのは、どうせ碌な事にならないという事実だけだ。
なにせ、発案者はお前なんだからな、バブル。








「……で、だな、バブル」
「何?不満?」

不満……は無い。
肩の荷は降りたし、あいつらも満足している風ではある。
問題はそこじゃない。

「そうじゃないが……何故、だ?」
「だって家庭用でしょ?」

そうだ、間違いなく家庭用だ。
それは周知の事実であり、別に驚くような事でも何でもない。

「それは知っている。だからそうじゃなくてな……」
「何でも良いじゃない。僕は自分の言った事を責任もって実行しただけだよ。メタル、君と違ってね」

何時も以上に嫌味を含んでいるように感じるのは俺の気の所為か?
……まぁ、いい
あまり考えても多分、意味がないのだろう。

「……ロックマン」

どういう経路か知らないが、バブルが呼び出したのはかつての(生みの親の)宿敵。
平和になった世では、彼が家庭用以外の用途で働く事は無い。

「何?……さっきも言ったけど、僕はもう『ロックマン』じゃないよ」
「あ、ああ……済まない」

そうだ、ほんの少し前に同じようなやり取りをしたばかりだった。
どうしてだろう
『ロックマン』ではない、というだけで、接し方がイマイチ分からない。

「……あ、そうだ。台所って何処かな?もう三時も近いし、おやつとか」
「おやつ?!ね、ね、ほんとォ?」
「おやつかぁ、久しぶり……っていうか、ウチ何かあったっけ?」

ヒートもウッドも、設定どおり反応が子供だ。
……子供は、正直あまり好きじゃあ、ない。
けれど、

「とりあえず小麦粉と砂糖と卵でもあればなんとかなると思うけど……」

どうしてだろう
目の前の子供の姿をしている元正義の味方は、どうやら例外らしい。
多分それは、あまりにも落ち着いた振る舞いの所為だとは思うのだが、実際のところはよく分からない。

「……多分、あって砂糖くらいじゃない?だからさ、ロック。おやつの前に買い物に行った方が良いと思うよ?荷物持ちと財布はメタル使えば良いから」
「バブル……」

何を考えている?何がしたい?
やはり眠たそうな瞳とマスクで隠された口では、何も分からない。

「よっし!メタル!ボクとウッドとロックのおやつの為に頑張って来て!」

子供は相変わらず
……仕方ない、元々といえば俺が面倒を見切れなかった事にある。
大人しく資金提供をし、荷物持ちにでもなろうじゃないか。

「……という訳だ。ロック、行こうか」

言葉には何も問題は無い。
……ただ、違うところに一つ、問題があった。
何故俺は、ロックに向かって手を差し伸べているんだ?

「…………」

差し出した手と、顔の間で視線がキョロキョロと往復する。
お前も意味が分からないだろうが、俺も同じくらい分からない。
そして、最終的には、

「うん、行こう。メタルマン」

どうして、そんな笑顔を俺に向けるんだ?
その所為で、何か、よく分からないものが渦巻いて仕方がない。
……もしかして、バブル、お前はコレを見越していたんじゃないだろうな?




……買い物から帰ってくれば、待ち構えていた三人が、からかう様に、けれど何処か本気で、口を揃えて言った。

「お帰り、お父さんお母さん」

何処かまんざらでもないと思ってしまった自分は、どこかきっとおかしくなってしまったに違いない。
……果たしてあの時のあの言葉は、本当に救いだったのか?