白黒的絡繰機譚

そんな君が

言わずもがな、当たり前、きっとバレている。
それでも、

「……もういい。もう来るな。連絡するな。近づくな」

下から覗きこむように睨まれて、動けない。
聴覚センサーに届いた音声は、更に俺の動きを阻む。

「ジャイロ」

何とか動いた口が名前を呼ぶけれど、とっくに逸らされた視線と同じで反応する気配なんて見えやしない。
つい、と静かに開いた距離約3メートル。
何時もならば本気を出さずとも瞬間で埋められる距離の筈なのに、今の俺には絶望的な程に遠い。

「……」

暫しの無言。
分かってる、俺が謝ってしまえばそれで済むってことぐらい。
けれど、それが出来ない事も分かってる。
悪いのは俺じゃない、全部お前だ。お前だって分かってるだろう?
ただお前のプライドがそれを認めたがらないだけで、なぁ?
頼む、お願いだ。
どうかこの距離がこれ以上開く前に終わりにしよう。

「……ジャイロ」

名前を呼ぶ。とても簡単な、単純な行為。
それでも、それだけでも、お前なら分かるだろう?
別に責めてる訳じゃない。
お前に睨まれてああ言われた瞬間に、怒りなんてとうに消え果てて、忘れる事なんて出来ないけれど、原因なんてどうでも良くなって。
言われるまでもなく、単純だってことは自覚してる。
俺の価値観はとっくにお前基準。
でも、だからって悪くもないのに謝れる訳ないだろう?
お前は大事だけれど、それとこれとは話が別だ。

「……」

今、人の殆ど来ない空中庭園にいるのは俺とお前だけ。
邪魔にならない程度にスピーカーから流れる音楽はこの場合関係ない。
お互いの距離は変わらず約3メートル。
ロボットに呼吸なんて飾りの様な殆ど意味の無いもの。
けれど、はっきりと聞こえた呼吸は何かとても重大なものに思えた。

「……!!」

一歩分埋まる距離。
お互いの距離は、四捨五入して2メートル。

「……知ってるだろ」

何が、なんて聞く必要なんてない。
分かってる、知ってる、当たり前。

「ああ……そうだな。知ってるな」

プライドが高くて、傲慢で、何もかも分かったような顔をして、それでいてどこか俺より子供で。
……前にお前の性格を聞きたがったマーキュリーにそう言ったら『それの何処が良いんだ?』なんて言われたっけ。
多分、こんな事を言ったなんて知られたら、また怒られるんだろう。

「だったら……」

軽いフットパーツが地面を蹴る。
がちゃりと金属らしい音が鳴る。

「だったら、察しろ。察せないなら、お前に俺は勿体無い」

首に回る腕も、胸に埋まる顔も、何もかも全て、全てがたった一つの言葉を伝えてくる。
けれど、お前の口だけは、その言葉を紡げない。
だから、俺はこれで十分だ。

――もしかしたら、大事な事は口にする必要なんてないのかもしれない。
例え世界中がそれを否定しても、それは俺にはきっと関係ない。
俺は、そんなお前が、