白黒的絡繰機譚

グラスローズ

君は僕の大切な。


それはもはや日課。

「ねぇ、クリスタル」

窓に一番近いソファ。
晴れの日だろうと雨の日だろうと、仕事の無い時の君の定位置。
今日もそこに座って、外ばっかり眺めてる。

「何でしょうか?」

ちょっと外に広がる空に嫉妬した、って言ったら君は笑うかな?
でも、今君にかける言葉はそれじゃあない。

「何か、僕に出来る事はあるかな?」

そう聞くと、何時も少しだけ困ったような顔をする。

「特にありませんよ。お気遣いありがとうございます」

言葉は優しい。
でも、僕は本当は知っている。
君は人に頼る事があまり好きではないし、得意でもないってことを、ね。
それは君の個性だし、仕方が無いとは思うよ。
でもね、頼っても貰えないなんて恋人失格じゃあないかい?

「……クリスタル」

我儘だって事くらい、分かってるさ。
それでも、僕は訴えずにはいられない。
君を愛しく思い過ぎてる、駄目な男の勝手な主張だけど、それでも、どうしても……!

「スター」

君の声が僕の名を呼ぶ。
諭すように、困ったように、それでいて心地よい優しい声で。

「……分かっていらっしゃるのでしょう?」

分かってるよ、分かってるさ。
君も分かっているだろう?
君は出来る限り人に頼りたくないけれど、僕は世話を焼きたくて仕方ない性分なんだ。

「分かってるよ。でも、僕は君の為に何かしてあげたくて仕方ないんだ。困らせてるって事は百も承知さ。それでも、ね」

君の座るソファに腰掛ける。
……といってもそれは一人掛けだから、僕が座れるのは肘掛なんだけど。
見下ろす形になる僕からは、君の表情は机に置かれた水晶越しでしか分からない。
水晶越しに分かるのは、君が困ったような笑ってるような表情をしているってことだけど……合っているのかな?

「別に、困ってはいませんよ。困っていませんけど……」

水晶に映った君の顔が歪む。

「慣れてなくて。こんなにも優しくされるのは、きっと初めてです」

歪んだ顔が落ち着いたところは、笑顔。
僕の一番好きな君の表情。
マスクを装着したままだから、半分しか見えないのが少し、残念だけど。

「僕も、こんなにも優しくしたいと思うのは君が初めてだよ」

だから、もっと甘えてよ。
君が慣れきってそれが普通に思える位まで、優しくしてあげたいよ。
過保護だと怒られる位、優しくして守ってあげたいんだ。
傲慢で、自分勝手で、独りよがりだけど……。

「……スター、一つお願いがあるんですけど、良いですか?」

くるりと向き直って、上目遣い。
そんなことしなくたって、僕は断ったりしないのにね!

「何だい?僕に出来る事なら、何でもどうぞ」
「特に欲しいものがある訳でも、行きたい場所がある訳でもないですが……出掛けませんか?私と」

君からの申し出、断るわけなんてないだろう?
今日も君が見ている窓の外は雲ひとつない快晴。
日の光が苦手な君の為に日傘を用意して、さぁ何処まで行こうか?