白黒的絡繰機譚

先三寸

「ちょっと良いか?」

何ですか?
貴方がそうやって先に用件も告げないとは珍しい。

「お前……この前、何処にいた?」

この前?
この前とだけ言われても分かりませんよまぁ嘘ですけど。

「この前の、突入の時だ」

ああ、アレですか……普通にいたじゃないですか。
この人結構鋭いですねぇ量産型があれだけいれば私一人いなくても問題無いでしょうに。
そもそも、ちゃんと代理立てといたんですけどね?
やっぱりただの量産型って駄目ですねぇ……。

「あくまでしらを切るか?お前は自分の職務を一体何だと思っているんだ!」

職務、ねぇ……。
正直どうだって良いんですよ。
警察に身を置く事も、その理由も全部。
そう言ったら……どうします?
……言ったらきっと、貴方はとてもとても面白くて不愉快な反応をしてくれるのでしょうねぇ。
それはとても魅力的だけれど、今は止めておきましょうか。
まだ私は退屈なんですよ、警部。

「ふざけているのか?」

まさかまさか、とんでもない。
私は貴方の優秀な部下ですよ。
そこらの量産型とは訳が違う。

「だったら何故……!」

怒っているんですか?

「お前が……!」

……ああ、そうだ忘れてましたよ。
これ、受け取って頂けますか?

「これは……」

見たら分かるでしょう?報告書ですよ

「…………」

おやおや、黙りこくって……如何しました?
と言っても貴方の考えなんて単純だ。
これで許してくれるのでしょう?貴方は本当に、お優しい方だ。
ああ、それにそういえば……今日もまた、いらっしゃるのでしょう?

「……!!」

本当に、どうして貴方ってこんなにも単純なんでしょうねぇ警部。
単純すぎていっそ哀れですよ貴方も今からここにやって来るだろうお人も。

「……ま、まぁ、今回の件はちゃんと始末書を出して、反省したらそれで」

声に動揺が出ていますよ?
ああ……始末書、ですか。
面倒くさいですねぇ、組織って奴はこれだからつまらない。
動くときにちゃんと動けばそれで良いじゃないですか。
実力主義、結果が全てですよ。

「その動くときに動かなかったのはお前だろう」

痛いとこ突きますね。
しかし警部、扉の方見すぎですよ。
私はちゃんとここで大人しく始末書書きますから、もうそれで良いでしょう?
この時ばかりは貴方の表情が見えなくて良かったと思いますよ。
幸せそうな顔なんて、見ててもつまらないですしねぇ……。

「…………」

……どうぞ、ごゆっくり。








「まったく……本当に単純だ」

部下なんてちょっと手が掛かる方が良いでしょう?
貴方は他人を気にし過ぎるから、尚更。
適当にあしらえば、それで終わり。
私が一体どこまで本当の事を話したのか、貴方には理解できないでしょう?