白黒的絡繰機譚

cream

自然過ぎて、なんていうか、なんていうか……。
堺さんは、俺の持ってる箱を一瞥すると、言った。

「お前が食えよ」
「も、勿論っす……」


最初から食べてもらえるなんて思ってる訳も無く。
……いや、全く思ってなかったって言ったら嘘になるけど、まあ、分かってた。
堺さん真面目で、自分にも厳しいからなぁ……。
多分世間一般では、お菓子の箱持って恋人(そう、恋人!恋人なんだって!)にこういう事って言わないんじゃないだろうか。
まあ俺と堺さんは、どう考えたってその世間一般に当てはまる訳が無いんだけど……。
とりあえず、別に帰れって言われてる訳じゃないから、俺はあがらせてもらう事にする。
堺さんは特に俺を待つ事はなく、さっさと奥に引っ込んでいる。

「お邪魔しまーす」

一応、挨拶はしておいて。
堺さんの機嫌を速攻で損ねてしまったんだし、その辺りはちゃんとしとくべきだ、うん。

「堺さーん……」
「あ?」
「あの、冷蔵庫入れて良いっすか」
「……好きにしとけ」

と、言われたのでとりあえずしまう。
冷やして食うモンだしなー温いのはきっとあんまり美味しくないんだろう。

「……」

チラリと冷蔵庫を見て、視線を元に。
ちょっと気まずいけど、隣に座った。
堺さんの事だから、駄目だったら言うだろうし。

「……どうしたんだ、あれ」

あ、大丈夫なんだ良かった。

「アレっすか?駅で売ってたんで、つい」
「……そうか」

やっぱり興味がなさそうだ。
堺さんだからなぁ……そりゃ甘いものなんて興味ないか。
飲みに行った時も色々観察してみたけど、辛口のしか飲んでないみたいだし。
甘いの好きな堺さん……うーん、ちょっと想像つかない。

「世良」
「は、はいっ」
「見るんだろ」

そうだ、俺が堺さんちに来たのは見たい試合を見せてもらうためだった。
全然艶っぽくもなんともない感じなのがらしいよなぁ、と思う。
……ちょっと不満っちゃ不満だけど、そういうのがっついて嫌われたくないし。

「……」
「……」

録画された試合を見て、終わったら速攻テレビを切る。
まだ昼間のこの時間、大した番組はやってない。

「……あ、クリームパン」

そういえば、もう冷えている筈。
堺さんを見ると、好きにしろって感じの顔をしてた。
じゃあそうさせてもらいます、という事で俺は冷蔵庫から箱を取り出して、更にそこから一つ取り出す。
堺さんの横に戻って、齧り付く。
冷えたクリームと少ししっとりしたパンは美味しかった。

「あ、うま」
「……」

ちらり、と堺さんが俺を見る。

「世良」
「はい?」

呼ばれたので、そっちを向いて、返事。
堺さんは、俺の右手を掴むと、そのまま引き寄せて。

「……!!」

クリームパンを、一口、齧った。
俺はまるで金縛りにあった様に動けないまま、それを最後まで見つめていた。
食べてるのも、口を離したもの、そのあと指を舐めたのも、全部カッコいいのはやっぱり堺さんだからだ。

「さ、堺さん、その」
「なんだ、俺の分はなかったか?」
「いや……そういう訳じゃないっすけど……。それ、俺の……」
「じゃあ良いだろうが」

そこで言葉を一回切ると、堺さんは俺を見て、ニヤリ(って言うのが正しいと思う)と笑って、続けた。

「世良の癖に口ごたえなんざ、生意気だ」

こう言われたら、なんか反論できなくなるっていうか寧ろ申し訳なくなってしまう自分は単純だと、今更ながらに思った。
……堺さん、ズルイっすよ。