白黒的絡繰機譚

押した腕で打ち込んで

俺は、お前に対して、怒ってんの。

「ねぇタッツミー、どうしたって言うの」
「言っただろうが。怒ってんの」
「そんな事言われてもなぁ。ボク、何かタッツミーを怒らせるような事したっけ?」

何もしてない筈なんだけど、なんて言って俺に手を伸ばす。
悪いね、今はそれを何時もみたいに好きにさせてやる気分じゃないんだわ。

「いたっ」

ぺしん、と音を立てて叩く。
酷いよタッツミー、なんて顔しても無駄な事をこの王子様はいい加減学習しないのかね?

「ふざけてっと、マジで怒るかんな」
「……」

最終通牒。何だろうな、どうしてもあと一歩のところで本気を抑えてしまう。
別に立場とか年齢とかじゃなくて、単にそういう性分ってだけなんだろうけど。
クロみたいに感情ぶつけられたら楽なんじゃねぇの、とか思わなくもないな。

「タッツミー」
「……」
「ねぇ、怒らないでよ。どうしても怒ってるのか分からないけど」
「……」
「タッツミーってば」

背中に咎める様な不満げな視線が刺さる。
まったくどうしてそういうの隠したりしないんだろうねお前は。

「……」

怒ってるんだよ。
俺はお前に対して、どうしようもなく湧き上がってくる理不尽な怒りを抱えてる。
だけど、だな?コレの原因はお前の理不尽な行動だから、別に俺だけが悪いって訳じゃない。
年上だとか、監督だとか、まあそういうのはこの際抜きだ。
抜きにしても……。やっぱり俺はお前に怒りを抱えたままで。

「……タッツミー」

俺を呼ぶ事しか出来ないお前にまた少し、ふつふつと怒りが湧き上がる。
お前さぁ、本当に分かんない訳?そりゃあ俺だってお前の事何でも分かってる訳じゃないけどさ。

「……こういう時に、分かんなくてどうすんだよ吉田」
「……タッツミー、ボクが本当に分かってないと思ってる?」
「さあ、ね」

お前は分かり易い時とそうでない時があるから。

「お前さ、今日何でここ来たの」
「タッツミーに会いたかったからに決まってるじゃない」
「会いたいなら、もう会っただろ。なのに何だよ……。お前は何時も」

何時も、メシだの何だの勝手に決めて、そして言うんだ。

『だってタッツミー、一人じゃ寂しいでしょ?』

大の大人、しかも年上がそんな事言われて、しかもあながち間違ってないってどういうこったよ。
お前さぁ、俺に構い過ぎなんだよ。
俺はお前の枷になる為に、承諾した訳じゃないんだから。
だから、

「お前はフットボール選手なんだから、俺を優先すんなよ」

ベタベタしたり、甘い雰囲気が好きじゃないってものあるけど、それ以前の問題だ。
俺とお前の間には、現実があるんだ、分かるだろ?
なのにお前ときたら……。

「……フフ」
「何笑ってんだよ」

振り返ると、何時も通り悟った様な顔。

「いやあ、タッツミーは真面目なんだと思ってね」
「な……、オイよし……っ!」

俺の口は、えらく感触のイイ手に塞がれて。

「ボクは、どちらも手を抜くつもりなんて一切ないよ」

分かっておくれよ、と付け加えて俺の口を解放する。
声になれなかった空気も一緒に解放されて、少し喉が乾燥しちまった様な気がした。

「……大口叩くね、王子様」
「王子様に実現不可能なことってない、って知らなかったかい?」

なら、次の試合頑張ってくれよ王子様。
手は、抜かないんだろう?
今回はそれで許してやるから、この次はこういう事すんなよな。
俺は別に、大丈夫だから。
……ま、そう言ったところで、お前に意味はないんだろうけど。