白黒的絡繰機譚

ヒカリ

暗い水面が、幽かな月明かりで、光る。


バイクを、走らせる。
頼りになるのは幽かな月明かりとバイクのヘッドライトだけ。
何せここは地下、罪人たちの住む場所、電燈なんてあるわけがない。
……本当は月の光すらあるはずがないけれど。
どうしてそれが与えられているのか、俺は知らない。

「……っ!!」

慌ててハンドルを切る。
……危ない、もう少しで大惨事になったかもしれない。
自分以外に走るものなどないから多少マシだが、やはり危険すぎる。

「下手だな。落ちたらどうする気だ」

そう不機嫌そうな声を上げたのは、後ろの白狂。

「……運転できない奴が下手とか言うな。つかこの暗さは色々無理だっての」
「そんなもんなのか」
「…………」

コイツは色々とモノを知らない。
この世界では思考が偏っている奴は多いが、コイツはその最高峰だ。
故に話が通じないことが多い。

「まあ……いい。とりあえず行くぞ」
「ああ」

ハンドルを握る。
さっきより少しだけ速度を落として、俺は走り始めた。


「海が見たい。連れて行け」

そう言われた時、驚いた。
最高幹部という平等の立場でありながら、今まで大した交流もなかったからだ。

「……何で、俺に頼む?」
「バイクを持ってると聞いたからだ」
「……ああ」

そういえばこの前、バイクのメンテをしているところをLOVEに見られたっけ。
そこから白狂の耳にまで届いたのだろう、きっと。

「まあ連れて行ってやっても良いが……」

正直、めんどくさい。
けれども、ここで要求を蹴ってもしもキレられでもしたらその方が厄介だ。

「そうか。なら行こう」
「は?今からかよ!もう日付変わるぞ!」
「当たり前だ」

俺を引きずるようにして、白狂は歩き出した。

「……着いたぞ」
「…………」

闇が濃く、幽かな月の光と波の音でかろうじて海だと分かるようなそれを白狂はバイクから降りもせず、ただ見つめている。

「……ベーベベ」

お互いそのままの状態でどれくらいの時間が経っただろうか。
白狂が俺の名を口にした。
……そういえば、コイツの口から俺の名出るのは初めてかもしれない。

「ん?」
「お前は、良い奴だな」
「……そりゃどーも」

そんなことを言われるとなんとなく、むず痒い。

「ベーベベ」
「ありがとう」

少しだけ、前よりもコイツと上手くやっていけそうな予感がした。