白黒的絡繰機譚

僕のヒーロー、私のヒロイン

幼馴染設定

隣の家に住んでいたキースお兄ちゃんは、何時だって僕の味方だった。
僕は性格もあってよく苛められたりしたのだけれど、その度にすぐ飛んできて、僕を守ってくれた。それが情けなくも嬉しくて、どうしても同い年の子よりも、キースお兄ちゃんとばかり遊んでしまった。それがまた苛められる連鎖を生むとは思いもせずに。
今思えば、年下のお守りばかりさせられて凄く迷惑だったに違いない筈なのだけれど、僕の記憶の中のキースお兄ちゃんは、何時だってにこにこと笑って僕と遊んでくれていた。
そんな、10年以上前の記憶。今はもう隣の家にキースお兄ちゃんはいないし、僕も苛められては泣いていたあの時ほど弱くもない。……胸を張れるほど、強くもないけれど。

「――嘘」
「あれ?」

だってずっと会ってなかったから。だってマスクを外して素顔で会う機会なんて今までなかったから。そう自分に言い訳しても、どうして、という疑問が消えない。

「キース、おにい、ちゃ」
「イワン君!」

ん、という一文字を口にする前に、がばりと昔と同じ様に抱きしめられた。
ああ、本当にこの人はキースお兄ちゃんなんだ。僕の記憶よりもっと強くて、格好良くなってる、この人が。

「ああ、イワン!久しぶりだね! ……というのも何かおかしいが。でも、君にまた会えて嬉しい!」
「ぼ、僕もです。まさか、こんな近くにいたなんて」
「全くだ。それなのに全然気が付かなかったなんて!君は昔と変わらずキュートだね!」

昔と変わらず。
きっと……いや、絶対に悪気なく言ったその言葉が僕の胸に刺さる。

「……イワン?」

俯いてしまった僕の頭に、不思議そうな声が振る。
昔は苛められっことヒーロー、今は万年最下位とキング・オブ・ヒーロー。差は全く埋まっていない。むしろ数値化されて、ハッキリしてしまったのかもしれない。
……あ、どうしよう。泣きそうだ。泣き虫はもう、あの頃に置いてきたと思っていたのに。

『泣いちゃだめだよ、イワン。ヒーローは泣かないんだ』

だから笑って!
そう貴方が何時も言ってくれていたのに。だから泣くのを止めて、ヒーローになりたいと思った。

「泣かないでくれ、イワン。私は君の泣いている姿を見たくないんだ」
「……」
「君が笑ってくれないと、私はヒーローになった意味を見失ってしまう。君が笑う日常を守りたいのに」

僕だって、貴方を守る為にヒーローになったのに。
それなのに、僕はまだ泣いてしまっている。抱きしめる腕が変わらず、いや昔とは違う何かを孕んでいるから僕は、泣き止んで腕の中から出る事も叶わないまま、キースお兄ちゃんとかすれた小さな声で呼ぶ事しか出来ない。