白黒的絡繰機譚

今日は君を甘やかす日

そう決めたから、何でも言ってみ?
……と、起きて寝ぼけ眼のハニーに言うと、ことりと首を傾げた。

「いきなり、何を言い出すのかと思えば……」
「駄目? 今日予定もないし、イイと思ったんだけど」
「良い悪いという事ではなく……ああ、なら俺もうちょっと寝ます」

そう言うと、俺に背を向けてもう一度シーツの中へ。
寝つきがそんなに良い方ではない筈なのに、すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。いや、ちょっと待てって。甘やかしてやるとは言ったけど、ちょっとなんか違うくね?
俺のしたい甘やかす、ってのはもうちょっとこう、二人でするものの予定だったんだけど。

「……しゃあねぇなぁ」

かといって健やかに寝るアンディを起こすわけにもいかず、しっかり目覚めちまってる俺は、ちょっと寝癖のついている後頭部を撫でてから、ベッドを後にした。
さてそこから向かうのはキッチンだ。ハラ減ってるし、ウチのお姫様に新鮮な野菜をあげなきゃならない。とりあえず冷蔵庫から青々とした葉物を取り出して、根本を切ってバラす。それと専用のフードを皿に盛って、お姫様の部屋へ。

「おはよ」

お姫様を撫でながら、室温やら水のチェックをする。勿論だけど、異常はなし。そういやアンディにも懐いてくれたけど、アイツの手から餌を食ったりするんだろうか。今度やらせてみよう。
お姫様が餌を食い始めたのを確認して、もう一度キッチンへ。今度は俺たちの飯を用意しないとな。
ベーコンを焼いて、バスケットにパンを盛る。卵はどうしようか、と考えてオムレツにすることにした。今日は半熟にはできねぇし。あとはオレンジとグレープフルーツ、キウイを剥いて、ヨーグルトをかける。自分のことながら、手際が良すぎて惚れ惚れしちまうぜ。それとインスタントコーヒーを淹れる。この国ではちょいと珍しい、でもシュテルンビルドではありふれていたブランドのものだ。アイツのお気に入り。
さて用意した朝メシを全部トレイに載せて、また寝室へ。アンディはまだすよすよと眠っている。トレイをサイドボードに置いて、俺もベッドの上へ。

「アンドリュー」

名前を呼んで、首筋に軽くキス。眠っているからか、普段より少し温かい。

「朝メシ用意したぜ」
「……ん」

ゆっくりとアンディの意識が戻ってくる。もぞもぞと身体を反転させて、俺を見るゴールドはまだとろりと溶け出しそうだ。

「動くのめんどいだろ?ここで食えるように持ってきたから」

はいあーん、とヨーグルトを纏ったキウイを差し出すと、一瞬戸惑ってから大人しく口に含んだ。咀嚼して、飲み込むのを見守ってから、瞼にキスをする。

「目、覚めた?」
「……はぃ」

ゆるゆると起き上がり、俺の肩に頭を預ける。

「次何食いてぇ?」
「自分で食べます……」
「ああ、ダメダメ。言ったろ?甘やかすって」
「……じゃあ、クロワッサン」
「はいはい」

クロワッサンをちぎって、アンディの口の中へ。残りはそのまま俺がいただく。

「貴方、もしかして一日中こんなことする気ですか?」
「そりゃ勿論。なんでも俺がやってやるからな」
「……普段だって、貴方俺を甘やかしてるのに」
「でも、まだまだ甘やかし足りねぇし」

次は何?
そう聞いてまた、キス。

「ではもう一度」

喜んで!