白黒的絡繰機譚

滅びゆく

別れ話です。

惹きつける。
それはほんの一瞬のみの、刹那の話。

「橘、これは新種か?」

真備がそう言って持ってきたのは、とても鮮やかな色をした小鳥だった。

「……いいや、それは5年程前にもう登録されている」
「なんだ、つまらん」

一気に興味を失ったらしく、逃がそうとした手を止める。

「橘?」
「その鳥はな……今の時点で絶滅寸前だ」

5年前、一人の漂流作家によって発見された小鳥。
その羽根の鮮やかな色は人を惹きつけた。
その色が装飾品として認識されるまでに、たいして時間は掛からなかった。
金のための乱獲、競い合って身につける婦女子、そんな彼女らの関心を引く為の自称紳士ども。

「たった3ヶ月ほどの流行でこの鳥は発見できなくなった」

同じような条件の未開に未だ発見例はない。
見かけた、という報告例もあるにはあるが、捕まえたものはいない。

「世界の何処かにはいるのかも知れない、が……今のところは絶滅寸前だ」
「…………」
「だから、よく見ておけ」

真備の掌の中の小鳥は、不思議そうにこちらを見ている。

「……言わないのか」
「あ?」
「持って帰れ、とは言わないのか」

緑の尾羽、青い羽毛、黄色い嘴。
その全てが、あの一瞬価値があった。

「俺は一瞬しか価値のないものに興味はない」
「一瞬……」
「お前だって、そうだろう?」
「……うん、そうだ。……そうだ」

ずっと避けてきた話題が、ある。
鳥とまぜこぜにして承諾させようとしている俺は卑怯だ。

「その一瞬はもう二度とこない」

見つからない鳥の羽根では身を飾れない。
失った熱は帰ってこない。そんな風に見てなどいないのだから。

「そうだ……な」

小鳥を解放する。
一瞬だけこちらを見て、すぐに翼を広げ飛んでゆく。

「泣きたいか?」
「お前こそ泣いたっていいんだぞ。胸くらい貸してやる」
「何で俺が泣かなくちゃいけないんだ」
「それは僕の台詞だ」

如何でも良い掛け合い。
底に潜む価値の種類は、俺では分からない。

「もう、見つからないんだろうな」
「ああ……。その方がいいんだよ」

飛び去った鳥と共に、何かが変わった。
もしくは、戻ったと言うべきなのだろうか。
罪なき鳥を仲介役にして、俺達の関係は編集者と作家以外の何物でもなくなった。