白黒的絡繰機譚

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ああ、何故だ。
何故、振り払わなかったのか?

人に触れられるのは好きじゃない。
ましてや人に触れるなんて真っ平だ。

「橘ーっ」

後ろから真備の声がする。
少し前までは隣にいたはずだが、きっと身長差の所為だろう。
今は10m近くも間が開いていた。

「橘っ、速いぞ」
「お前が遅いだけだ」
「おかげでおちおち食事も出来ないじゃないか」
「さっき食ったばかりだろうが!!」
「成長期なんだ、仕方ないだろう?」
「……のわりには小せぇな」
「…………さて!気を取り直して行こうか!」

そう言うと、真備は小走りに先へと進んでいく。

「流したな」

コイツとまともに続く会話をするのが、まあ無理なのだが。
ハァ、と溜息を吐きつつ俺も歩き始めた。
すると、数m先にいた真備がピタ、と止まる。

「ん、何かいたか」

そう声をかけると、こちらに向き直ってスタスタと近づいてくる。

「橘、先に進んでくれ」
「…………は?」

意味が分からない。
俺の方が速いのだから、先に進んだら距離が開いてしまうだろうに。

「追いつけんのか?」
「大丈夫だ」

真備は俺のスーツの袖を掴んで、そう言った。
こちらを見上げてくる顔は、何故か満足そうだ。

「……まぁ、良いか。……放すなよ、待ったりしないからな」

行動の意味はさっぱりだが、何故かこれで良い気がした。

「ああ」

……何故、俺はこれを不快に思って振り払わなかったのだろう?
どうして振り払わなかったのか。
その理由はきっと自分の中に存在するのだろうけれど、

「……ったく」

まだ、気付けるほど強くない。