白黒的絡繰機譚

薄暗闇の話

少々性的要素有り

彼と抱き合うのは、何時も私の部屋だ。 私の部屋であるということは、私のテリトリーである筈だ。なのに、彼に抱きしめられていると、まるでそうしていないと息が詰まってしまうのかと錯覚する。苦痛というわけではない。むしろ逆であるはずなのに、どうしてもそう錯覚するのだ。

「やましたく、ん」
「はざまさん」

彼は上背がある。そして、もう私達は2個程度の歳の差なんて気にする年齢でもない。なのに私を見つめてくる彼の瞳は、年下なのだと再確認させてくれる色をしている。その色を他にどう呼べばいいのか、私は今だ答えを見つけられていない。
ほんの少し彼の腕が緩んで、どっと全身に血が巡る。特に顔に集中してしまうのは、恋愛では通常なのだと彼は言った。私はそうやって、彼にいつも理由を聞いている。あまりそういうことは言いたくないのだが、恋愛は答えが見つからない。私と彼だけが納得する理由を答えにいつも、こじつけている。

「ねぇ、はざまさん」
「どうした、山下く……っん?!」

彼の手が性急に上半身を滑って更に下へと降りていく。まだお互いに帰宅して碌に上着も脱いでいないような状態だというのに。

「今日はさ、このままどうです?」
「何が、だ。このまま……?」

私が「このまま」の指すものを図りかねていると、彼は嬉しそうな――恐らく、嬉しいのだろうと思う。笑顔には違いないのだから――顔をして、私の頬から首筋を骨ばった指でなぞった。ぞわり、と脈と脊髄を何かが走り抜けていく。これは何だっただろうか。抱きしめられて、口吻までされてしまうと、私の思考力は水底に沈んだコインのようなもので、もう自力では動けない。彼の言葉に返事をすることしか。

「このまま。このまま服だけ脱いで、……やっぱりそういうの、抵抗あります?」
「入浴は……」
「ナシ、がいいなーって」
「……」

私が口を閉じている間に彼は私の身体を開放して、ほんの少し距離を取る。腕を伸ばしきらなくても、私に触れられる、その程度の距離だ。
彼は、いつもどおりの口調で、私に要求をすることがある。要求と言うのもなにかおかしい……子供のおねだり、に近いようなものなのかもしれない。けれど彼は成人なので、私が理由を持って退けると、それ以上は何も言わない。やっぱりか、という風に肩を竦ませるだけだ。

「……」
「はざまさん、やっぱりその……」
「撤回は認めない。……入浴もなし、ベッドの上ですらないというのは、正直抵抗もある。だが」

手を伸ばして、彼の肩を掴んだ。少し凝っている気がする。後で身体が動くのなら、マッサージをしてやるのもいいだろう。

「山下くん、がしたいというのなら、そうしよう」

こういう時にだけ、私も彼より年上なのだな、と感じる。告げると恐らく、彼は変な顔をするのだろうが。代わりに彼の首筋に擦り寄る。

「……変な匂いとかしないですよね?」

そこを気にするのならば、どうしてと思わなくもないが、否定をして彼を待つ。
聞きたいこと、言いたいことは一旦置いておこう。今は、彼の受け入れる。言い淀んでいる、飲み込んでいることも全て。
まずは、その熱を。